第5話 新入部員の歓迎会
「大丈夫ですか?」
トランプに負けた俺は、大量のワサビ入りのシュークリームを食べ絶賛のたうち回っていた。
神風は心配そうにこちらを見つめてくる。
「大丈夫・・・」
本気で心配してくれる神風に悶えながらも心配をかけたくないので、平然を装う。
「とりあえず、飲みのも買ってきますね」
神風はカバンから財布を取り出し急いで教室を飛び出し、校舎の一階にある飲み物の自動販売機へ向かう。
「ほんとにいい子よね」
「由美さんも見習ってください」
「私だって少しはやり過ぎたかなって思ってるわよ」
申し訳ないと思っているのか、由美さんは俺から顔をそらし何もない天井を見上げている。
「罰ゲーム俺が受けたからいいですけど、神風だったらどうするつもりだったんですか?」
「油崎くんだから罰ゲーム与えたけど、雫ちゃんだったらやらせないわよ」
「・・・・」
俺は無言で由美さんを見つめる。
「そんな目で見ないでよ」
「今度なんか奢ってくださいね」
「しょうがないな〜」
「俺もなんか奢ってほしいっす」
「伊吹君は関係ないでしょ」
「ケチくさいすよ」
「も~わかったわよ!!」
由美さんは何だかんだいい人だから、こういう押しには弱い。
だから、みんな由美さんに甘えちゃうんだよな。
「そういえば部活何時に終わりますか?」
「そうね~、新学期そうそうであまり人が来なさそうだから、そろそろ終わりにしようかな」
時計は短針がもうすぐ6の数字を指そうとしており、結構いい時間帯だ。
「この後の歓迎会はどこでやるんですか?」
「そこは私に任せといて。とっておきの会場を用意してるから」
由実さんは腕を組み自信たっぷりにそう言う。
歓迎会や行事ごとになるとこの人は力を入れて取り組むから、今回も任せといていいだろう。
「神風おそいっすね」
「そう言われれば確かにそうね」
部室から一分もあれば着くような場所にあるからそんな時間はかからないはずなのだが、かれこれ5分ぐらいは経ったはずだ。
「すみません、今戻りました」
「お帰りなさい雫ちゃん、随分時間がかかったみたいだけど何かあった?」
そんな事を考えていたところに丁度よく神風が帰ってきた。
「飲み物買いに行ったんですがちょうど業者の人が作業してたみたいで、油崎くん大変だと思って校舎の外の方にある自動販売機まで買いに行ってました」
「わざわざ俺のためにありがとう。でもそんなに気を使わなくてもいいんだぞ」
神風は手に持っていたミルクティーを俺に渡す。
わざわざ外に行ってまで買いに行ってくれたのが少し申し訳なかった。
「油崎くんには一杯お世話になったから、こういう時に恩返ししたいと思って」
「俺は神風のことを友達だと思ってる。だからそんなに気お使わないでくれ」
「もしかして、迷惑でしたか?」
神風は少し不安そうな表情を浮かべる。
「迷惑じゃない、むしろ嬉しいよ。でも友達って助け合ったりするものだろ、だからそんなに気お使わないで欲しいんだ。じゃないと逆に俺が申し訳ない気持ちになる」
「わたし今までどうやったら油崎くんに恩返し出来るのか考えてきました。でもそれが油崎くんの迷惑になるのならこれからは気お付けます」
「そうしてくれると助かる。お互いもっとフラットな関係でいよう」
「わかりました。でも一つだけわがままを言ってもいいですか?」
彼女は真っ直ぐな瞳で俺の目をしっかりと見つめる。
「いつか自分が納得できる形で恩返しはさせてください」
「・・・わかった」
俺は彼女の瞳を見つめ返し小さく頷く。
俺自身は彼女に恩返ししてもらえる程の事はやってないと思うが、彼女はそんな風に思っていたのか。
「雫ちゃんも帰ってきたことだし、そろそろ行くわよ」
「どこに行くんですか?」
神風含め俺ら一同の頭の上にはてなマークが浮かぶ。
「とりあえず、支度したら行くわよ」
どこに向かうのかはわからなかったが、俺らは荷物を持って由美さんについていくことにする。
学校近くのバス停でバスに乗りその後降りたバス停から5分ぐらい歩き、目的地に到着する。
「着いたわよ」
「由美さんの家じゃないですか」
どうやら目的地は由美さんのお家だったみたいだ。
由美さんのお家を初めて見たが、外観だけでも立派なものだった。
由実さんに案内され中に入ると、とても広々とした玄関が俺たちを向かいれた。
「今家に誰もいないから、遠慮せずに入って」
とても広々とした家だが少し寂しさのようなものが感じられた。
俺らは由実さんに案内されリビングに向かう。
リビングの前に案内された後、少し待って欲しいと言われその場で2,3分待つ。
入っていいと言われ中に入ると、そこには今日のために用意したと思われる装飾とケーキが置かれていた。
「すっごい豪華っすね」
「少しがんばっちゃった」
これを一人でやるとなるととても大変だったのではないかと思う。
「どう?神風ちゃん気に入ってくれた?」
神風はその光景を目のあたりして、少し瞳をウルウルとさせていた。
「私こういうの初めてで、とっても嬉しいです」
「それならよかった。今日は時間が無くて料理とかあまり用意できなかったけど、神風ちゃんの誕生日の時はもっと盛大に祝うからね」
「もう十分すぎます」
やっぱり由美さんは尊敬できる先輩だと俺は改めて思った。
「さて、歓迎会はじめるわよ!」
その晩、俺らはワイワイ騒ぎながら由実さんの家で夜を過ごした。
パーティーグッズを使いふざけあいながら、用意してくれたケーキを皆で食べた。
とても楽しく、時間はあっという間に過ぎた。
「そろそろ遅くなってきたし、解散にしましょ」
時刻はもう9時になっていた。
「片付けは私がするから、貴方たちはもう帰りなさい」
「お手伝いしたいです」
「俺達も手伝いますよ」
「気持ちは嬉しいけど、片付けしたらもっと遅くなっちゃう。それに、雫ちゃんが一人で帰るのも心配だし」
「神風は俺が送りますよ」
俺的にも神風が一人で帰るのは心配だったので、由美さんに提案する。
「そしたら俺が由美さんの片付けを手伝って、海斗が神風を家に送るっていうのはどうですか?」
「そうね海斗君が雫ちゃん送ってくれるなら安心かも。傑くん申し訳ないけど手伝ってもらっていい?」
「もちろんです」
「そしたら俺は神風送っていきますね」
「おねがい」
「今日は私のためにありがとうございました!」
「また明日部活でね」
「はい!」
俺と神風は玄関で靴に履き替え、由美さんの家を後にする。
街灯で照らされた夜道はとても静かで、少し肌寒く感じた。
神風の家は丁度、由美さんの家と俺の家との間にあり、距離もそんなに遠くはなかった。
帰り道俺らは今日のことについて振り返っていた。
二人ともはしゃぎすぎてクタクタだったがまた是非やりたい、そんな会話をしながら俺らは夜道を歩いて帰った。
「着きました」
「ここに住んでいるんだね」
「はい」
静かな時間が流れる。
「あの・・・」「あの・・・」
「先にどうぞ」
「神風から先でいいよ」
同時に喋ってしまいお互いに譲るが、また静けさが戻る。
「・・・そしたら、帰るね」
「・・・はい」
互いにお別れの挨拶をし、俺は自分の家へと帰って行った。
街灯が照らされる夜の道、海斗は暗闇の中へと歩き出す。
雫はそんな海斗の背中をそっと見つめていた。
その姿が完全に消えるまで、見つめ続けていた。
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