第4話 部活が暇なのでトランプをする
神風が入部して来た次の週の月曜日、その日の午後から本格的に部活動は始まった。
神風がやって来たその日は、自己紹介とこれからの仕事についてある程度のミーティングを行った。
そんなに時間はかからずほんの30分ほどで終わった。
その後、由美さんが神風の歓迎会を開こうと言い出したが、その日は神風に用事があったらしく、結局歓迎会を開けないまま解散になった。
次の週の月曜日はみんな予定が空いているとのことだったので、今日部活動が終わった後に歓迎会をやることになっている。
歓迎会をやる前に仕事を終わらせなければならないが、新学期早々はあまりお悩み相談しに来る生徒がおらず、俺らは暇を持て余していた。
その間特にやることもないので、教室でだらだらと過ごしていた。
「暇ね」
「そうっすね」
由美さんは顔を机に突っ伏しそう言う。
そんな彼女のボヤキに、天井を見上げながらボーとしていた傑が返事を返す。
カチカチと時計の針の音が部屋の中を飛び交う。
「トランプでもやりましょ!」
由美さんは机に着けていた顔を大きく振り上げ、唐突にそんな提案をする。
「そういえば、あそこの引き出しにトランプありましたね」
「俺はいいですよ」
「私も参加したいです」
由美さん以外の人達も特に反対はしなかったため、俺は教室の端っこの方にある引き出しからトランプを出し、ババ抜きをすることにした。
「それじゃあ、トランプ配りますね」
俺はトランプをケースからだし何度かシャッフルした後、上から一枚ずつ時計回りに渡していく。
最後の一枚を配り終え、自分の手札を確認する。
数字やアルファベットなどが書かれたカードの中に明らかに絵柄の違うカードが混ざっていた。
どうやら、俺が最初のジョーカーの所有者に選ばれたみたいだ。
俺はとりあえず同じ数字のカードを机の真ん中に出していく。
皆が出し終え準備が整ったので、じゃんけんの結果俺から時計回りで始めることになった。
俺の左側に傑、正面に由美さん、右側に神風と机を囲うように並んでおり、俺はまず傑の手札の中からトランプを一枚取る。
9のカードを引き手札にあった同じ数字のカードと一緒に机の中央に置く。
その後時計回りに左側の人の手札を一枚づつ引いていき、ゲームが進んでいった。
最終的に俺と神風が一騎打ちする形で残った。
俺の手札は残り2枚。
それに対して神風は残り1枚。
次は神風が引く番。
彼女は俺の手札を真剣にみつめながら、俺の手札の前でカードに触れず右手を左右に動かす。
彼女の手に連動するように、彼女の両目も右往左往する。
「はは」
とても真剣に選んでいた彼女を見て、俺は思わずクスリと笑ってしまった。
「ご、ごめんなさい!!」
そんな俺の反応を見て、彼女は恥ずかしそうに頭を下げる。
「大丈夫だよ。やっぱり最後になると真剣になっちゃうもんね」
「そ、その、つい・・・」
顔を俯けながらそう返事する彼女。
その顔は恥ずかしさからか、少し赤らめていた。
「私、前までは一人でいることが多かったから・・・みんなでババ抜きするの久々なんです」
以前までの神風は一人でいることが多く、友達と遊ぶ機会もあまりなかった。
そんな自分が嫌だった神風は、自ら努力し変わった。
最近は一人の女子生徒と仲良くなりその子とよく一緒に居るようになったが、以前まで一人で居ることが多かった彼女は、友達とババ抜きで遊んだ経験があまり無かったのかもしれない。
「だから、今とっても楽しいです」
「うん、俺も神風と一緒に遊べて楽しいよ。これからもよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
窓からそよ風が入りこみ、彼女の髪がかすかになびく。
少し落ち始めた日の光に照らされたその笑顔は、とても眩しく美しかった。
「それじゃあ、引きますね」
そして、俺の手札からカードを一枚抜き取ると、最後のペアーがそろいゲームが終了した。
「やったー、勝ちました」
「かんぱいだよ」
勝負には負けたけど、清々しさに似た気持ちが自分の中にあった。
しかし、そんな感情も由美さんの次の一言で一瞬にして消えた。
「それじゃあ、罰ゲームね」
「え?」
「言ってなかったけ?負けた人はワサビがたっぷり入ったシュークリームを食べてもらうわよ」
笑顔で告げられた死刑宣告。
そして、教室から一人の男子生徒の叫び声が響くのであった。
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