第3話 美人の部長と可愛い新入部員

高校一年の頃、俺は傑に誘われある部活動に入った。


その部活動は出来たばかりで、傑を含め部員は二人しかいなかった。


部活を二人で成り立たせているのが不思議かもしれないが、それはもう一人の生徒の存在が大きいからだ。


その部活動を作ったのは俺らより一つ上の先輩だった、美民 由美みたみ ゆみ


この学校の理事長の娘で、その学年の生徒と先生達からは高い人気と信頼を獲得していた。


容姿はとても美しく、近づき難い高嶺の花の様な存在かと思いきや、本人はとても明るく人懐っこい性格をしており、誰にでもフレンドリーに接していた。


傑が由美さんと知り合ったのは一年の春。


一年生の春から本屋でバイトを始めた傑の前に彼女は現れた。


この場合傑の前に由美さんが現れたというよりも、傑が彼女の前に現れたというのが正解かもしれない。


元々由美さんはそこの本屋さんで働いており、その出会いは偶然だった。


彼女はバイト先でも明るく振舞っていたため店員、客問わず皆から好かれていた。


その振る舞いは傑に対しても同じであり、そんな彼女に傑は直ぐに惹かれていった。


その年の秋、少し肌寒くなり始める季節。


由美さんは傑に、バイトを辞めてある部活動を始めようしている事を話した。


その部活動とはお悩み解決部、のちに俺たちが入部することになる部活動だ。


彼女は傑に会う前々から、その部活動を作ろうと考えていたが、いくつかの問題がありすぐに作ることが出来なかった。


やっとの思いで活動できるようになったのがその時期であり、その事を傑に話したところぜひ参加したいと傑から申しこまれた。


彼女は元々一人で活動するつもりでいたが、「力仕事などで人手が必要になるかもしれない」という傑の申し入れを受け、傑と一緒に活動することにした。


始めの内はちょっとした資料整理などの仕事を頼まれそれらをこなしていたが、時間が経つにつれ生徒のお悩み解決などもするようになり、そのうち二人だけでは仕事がこなせなくなっていた。


そこで傑は俺をその部活に誘い、それからは三人で活動するようになった。


資料整理などの仕事は三人で分担し、生徒のお悩みについては一人一人がそのお悩みを聞くという形をとった。


生徒のお悩みを聞いて一人では解決できない場合は三人で協力したが、大抵のお悩みは一人で解決できるものばかりだった。


好きな人がいるから告白したいとか、テストがやばいとか、友達関係についてなど様々なお悩みはあったが、俺らはそれぞれの生徒に向き合い、それらのお悩みを解決していった。






そういった経緯で俺はこの部活に所属しており、今俺はこの教室にいる。


「今週は部活動無いんじゃないんですか?」


本来、今週の部活動は休みであり、来週から本格的に活動を始める予定だった。


しかし傑から昨日、土曜日に部活動をやるから学校に来てほしいと言われ、俺は今ここにいる。


今週はほとんどの部活動が活動を休みにしているため、その日の学校に他の生徒の姿はほとんど見当たらず、学校はとても静かな空間と化していた。


「まあそうなんだけど、一足先に新入部員を紹介したいと思い二人を呼んだの」


「新入部員?」


傑もそのことは知らなかったらしく、由美さんに聞き返す。


「そう、その子を紹介したかったから二人を呼んだの。入って来て」


由美さんは俺らではなくその隣の倉庫室に向かいそう呼ぶと、その声に反応するようにドアがガラガラと音を出し開かれた。


俺はその生徒を見て驚く。


そこには去年俺のところにお悩みを相談してきた、一人の女子生徒の姿があった。


「今年から入部することになりました、神風 雫かみかぜ しずくです。よろしくお願いします」


少しか細いような声で、しかしながら堂々とした姿勢で彼女は俺らに向き合い、自己紹介をした。


少し小柄で華奢な体つきをしながら、整った顔とショートに切った銀髪が、とても綺麗な女の子だった。






去年の冬頃、俺は初めて彼女に出会った。


最初に見かけたのは部室の扉の前。


彼女はその教室に入るかどうか迷っていたのか、俯きながら手をもじもじとさせていた。


相談に来る学生にはそういう生徒もいたため、その時は俺から彼女に声をかけた。


「もしかしてお悩み相談しに来たの?」


「・・・・・・・」


突然声をかけられ少し驚いたのか、すぐに返事は帰ってこなかった。


ほっとくことも出来なかったので、とりあえず彼女を部室に案内した。


最初は入るのをためらっていた彼女だったが、しばらく考えた後、素直に中に入ってくれた。


椅子に案内した後、俺は室内にある時計で時間を確かめる。


時間を見て傑達はしばらく来ないと確認し、この場が気まずくならないように彼女と会話をすることにした。


「名前聞いてもいいかな?」


「・・・・か、神風です」


弱々しく返答してくれるが、目は合わせてくれない。


「よろしくね神風さん。今日はお悩みがあって来てくれたんだよね?」


「・・・・はい」


少し気まずそうにうなずく神風さん。


傑と由美さんが来てから相談を聞こうかと思ったが、大勢の時に聞く方が話しずらいのではないかと思い、教室に備え付けてあるポットで緑茶を汲みそれを彼女に渡し、彼女の相談を聞いてみることにした。


「もしよければ、どんな相談をしに来たか聞いてもいいかな?」


湯呑を受け取った神風さんはその中の液体をじっと見詰め、しばらく無言で考えた後ゆっくりと話し始めた。


「実は他の人と話すのが苦手で、悩んでいて・・・・そしたらここを見つけて・・・・・・・」


つまり、人付き合いについて悩んでいてそれを相談しに来たのか。


俺は傑たちが来るまでの間、神風さんの悩みについて少しずつ聞き出した。


神風さんには一つ上の学年に姉がいて、その姉は俺でも知っているほどの人気物である神風 空かみかぜ そらさんだった。


類い稀な美貌を持ちながら文武両道で欠点のないという、噂に疎い俺でも知っている彼女の姉の存在は、もちろん彼女の周りでも認知されていた。


そして、姉に興味を持った人達も彼女に近づくようになり、そういった人達にどう対応すればいいのかわからず、逃げるように一人で居るようになり、今では彼女に近づいてくる人はあまりいなくなったと言う。


彼女自身自分から他の人に関わる事が怖くなり、どうしていいのかわからず、それでここに来たという訳だ。


その後、傑と由美さんが来て改めて俺から説明したところ、彼女のお悩みを聞いたという理由で彼女の担当は俺になった。


俺自身も神風さんの話を聞いてしまった以上ほっとけなかった。


なので、俺は神風さんに協力する形で尽力した。


そこから解決までには色々とあった。


色々な問題があり、神風さんは何度もくじけそうになった。


しかし、何度失敗しても彼女は諦めずに挑戦した。


そして、その壁を乗り越えた。


彼女自身の力で解決したのだ。






そして今、彼女は再び俺の前に現れた。


その姿はあの頃よりも大きく見える。


「これから皆さんのお役に立てるよう・・・一生懸命頑張ります」


あの頃俯いてばかりいた神風は、少しづつだけど前を向くようになった。


いま彼女の瞳には世界はどういう風に映っているのだろうか。


その答えは分からないけど、俺の目には彼女の瞳は輝いて見えた。

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