第2話 俺と幼馴染の日常
遥に彼氏がいることを知った次の日の朝、俺はそこまで落ち込んではいなかった。
思ったより俺の感情は冷静で、朝の支度をいつも通りに済ませていた。
昨日あんなに悩んでいたのが、嘘のように感じた。
支度を済ませた後、俺は玄関に向かい靴に履き替える。
ドアを開け「行ってきます」と挨拶を済ませ、そのまま学校に向かった。
学校に向かう途中俺より先に家を出たと思われる、遥の背中が少し先の方に見えた。
それを見て歩く速度を少し遅めたが、どっちみち会うことになる事を考え、遥に声をかける。
後ろから呼びかけた俺に気づき、遥は俺の方に振り向き右手を左右に振りながら挨拶を返してくれる。
「今日は三人でお昼行こうね」
「彼氏とはいいのか?」
「もしかして嫉妬してる?」
彼女は少し口角を上げ、こちらの耳元でそう囁いた。
その吐息が俺の耳に当たると同時に、反射的に体が遥から遠ざかる。
その反応が可笑しかったのか、遥はクスリと笑う。
遥のその表情を見て、少し小恥ずかしくなり、俺はそっぽを向く。
「ふふ、思ったよりいい反応してくれて満足、満足」
「からかうなよ」
彼女の顔を見ることが出来ず、そっぽを向いたまま返事をする。
そんな俺を見てまた微笑む彼女。
「海斗耳弱いもんね」
くすくすと笑う彼女。
俺は恥ずかしさよりも、一方的にやられた事が悔しかった。
ここまで一方的にやられていては俺の面目が立たない。
そう思った俺は、ノーガードだった遥の脇腹を指で突っつく。
「ひゃっ」
予想外の脇腹への攻撃に驚き、遥はかわいい声をだす。
遥が俺の弱点を知るように、俺も当然遥の弱点を把握している。
「昔から脇腹弱いよな」
「昔から突っつくの禁止っていわなかったけ?」
「そうだったけ?ごめん、覚えてないわ」
わざとらしくとぼけて見せた。
遥は怒りと羞恥とのはざまで微妙な表情をする。
そんな遥の姿を見て、俺は心の中でガッツポーズを決める。
「もう知らない!!」
彼女はそう言うと、一人でスタスタと先に学校に行ってしまった。
流石にからかいすぎたか?
昔から遥は俺にからかわれると、すぐにいじける癖があり、そういう場合は必ず謝るまで許してくれなかった。
ずっと無視されるよりはましか。
そう思った俺は、遥を追いかけ許されるまで謝り続けた。
結局「もう絶対に突っつくの禁止だからね」という遥の命令に従う感じで、俺達は和解した。
まあ内心では、「何だかんだ許してくれるし今度も平気だろう」と考えていたが、それは本人には言わないでおこう。
そんなやり取りをしているうちに何だかんだで学校についていた。
学校に着いた後はお互い自分の席に向かった。
遥は仲のいいお友達とおしゃべりを始めたので、俺はスマホをいじりながら傑が来るのを待った。
俺がスマホをいじってから二分ぐらい経ち、傑が教室にやって来た。
挨拶を交わし何気ない会話を始めるが、途中昨日のゲーセンでの出来事が話題に上がる。
そういえば傑と遊んでいた時の事、よく覚えてないな。
俺は少し昨日の事を振り返るように思い返す。
傑とご飯を食べた後、俺は先に店の外に出て傑のトイレを待っていた。
そんな時、俺は偶然にも遥に会った。
しかし遥の隣には、名前の知らない男子生徒だった土壌の姿があり、土壌は俺に挨拶をした後、自分は遥と付き合っていると言ってきた。
二人が付き合っているという事実は俺にとって衝撃的であり、俺は動揺してしまいその後の記憶があまりない。
そのため、傑と遊んだ記憶はほとんど覚えていない。
「そういえば海斗昨日ずっとオウム返ししてたな」
「悪い、少し考え事してたんだ」
「ふーん、何について考えてたんだ?」
「・・・まあ、色々な」
その質問に即答することが出来ず、答えになっていない返答を返す。
「まあいいや。それよりも由美さんから明日二人とも空いているか聞かれたんだけど大丈夫だよな?」
「部活あるのか?」
「たぶんな」
「まあ、明日は特に用事もないし大丈夫だよ」
「おけ、俺から由美さんに返事しとくわ」
「任せた」
「そしたら明日土曜の9時に部室集合な」
「おっけい」
そこでちょうどよくチャイムが鳴り、傑は自分の席に戻っていった。
昨日に引き続き学校は昼頃に終わり、俺は二人と合流し学校を後にした。
何を食べるか決めてなかったので、のんびり歩きながらそれぞれ提案し、最終的にファミレスに行くことになった。
ファミレスにつくと定員に窓際の席に案内されたので、その案内に従い窓際の席に座る。
机の上に立てかけてあったメニューを開き、それぞれがメニューの中から食べたいものを選ぶ。
俺と傑はすぐに注文したい料理を決めたが、遥は少し思い悩んだ顔で二つの品を見比べていた。
しばらく考えた後、「よし、こっちにしよ」と遥が言ったので、俺はピンポンで定員を呼びそれぞれ頼みたいメニューを注文した。
俺と傑はメニューに載っていたランチセットにして、遥は思い悩んだ末にカニクリームパスタを選んだ。
料理が来るのにそれほど時間はかからず、全員分の料理が来てから俺らは食べ始めた。
「やっぱり、カニクリームパスタで正解だった」
料理を食べ終えた遥は満足そうにそう呟いた。
「今度来た時俺もそれ頼んでみよ」
遥が美味しそうにパスタを食べていたため、それを見ていた傑もそのパスタに興味を持ったらしい。
「ぜったい食べたほうがいいよ」
それを後押しするように遥が答える。
二人が食べるとなると自分だけがその味を知らないままになる。
そうなると仲間外れにされた気がして嫌なので、俺も次回同じパスタを頼もうと心の中で決めた。
食べ終えた後、俺らは少しの間ファミレスで時間をつぶし、俺の家に向かった。
三人でできそうなパーティーゲームで遊び、外が暗くなり始めたので、二人は帰っていった。
今日一日二人といつも通り過ごし遊んで、とても楽しかった。
二人が帰ったあと部屋に静けさが戻り、ふとあのことが脳裏をよぎる。
「・・・・風呂入るか」
今日は親が忙しく帰るのは遅くなる。
そのため、俺は少し早めに風呂を済ませることにした。
お風呂に入っている間、昨日の事が何度か脳裏をよぎった。
そのたびにモヤモヤした気持ちが俺の中に生まれる。
朝起きたときはもう大丈夫だと思っていた。
今日もいつも通り、遥と過ごしていた。
なのに何でこんなに、心が締め付けられるのだろうか。
この気持ちをどうしたらいいのだろうか。
その答えは、今の俺にはわからなかった。
次の日、俺は早めに起床し朝食などを済ませ学校に向かった。
モヤモヤした気持ちは俺の中にまだあるが、無理やり気持ちを切り替える。
毎朝通いなじんだ通学路を進み、目的の教室に着くとそこには傑ともう一人、長い黒髪をなびかせた美しい女子生徒の姿があった。
「おはよう、油崎くん。みんな揃ったことだし部活を始めるわよ」
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