幼馴染を好きになる瞬間

よもぎ

好きになる瞬間

第1話 俺は幼馴染が好きなのだと気が付く

高校生活はあっという間に過ぎていく。


誰かのその言葉は、この春から2年になる俺、油崎 海斗ゆざき かいとにはまだよくわからなかった。


新しくなったクラスを一度見渡してみて思う。


少し前まで見慣れていたはずの教室は、クラスが変わるとともに少し新鮮に感じられ、いつもより騒がしくそれでいてソワソワしていた。


「よう海斗」


その声は教室の窓際に座っていた俺に向けられたものであり、聞きなれた馴染み深い声だった。


「今年も同じクラスだったんだな、傑」


その声の正体は、去年同じクラスで仲良くなった親友の伊吹 傑いぶき すぐるだった。


明るく好青年である傑とは、同じバイト先になったという理由で話すようになり、それからはいつも一緒にいるほど仲良くなった。


傑が俺と同じクラスという事に喜びを感じ、先程まで新鮮な風を浴びていたような感覚は、少し懐かしさが混ざり心地よい風に変化した。


「おはよう。海斗、伊吹くん」


「おはよう遥」


「今年は水森も同じクラスになったのか。お前ら二人そろって一緒にいると去年と変わんねー感じするな」


「今年もよろしくね」


俺と傑に挨拶したのは俺の幼馴染の水森 遥みずもり はるか


その容姿は誰もが認める美少女であるが、俺にとっては見慣れた存在だった。


俺と遥は幼少期の頃、家が近所だった理由から兄弟のように仲良くなり、一緒に居ることが多くなった。


小さい頃は悪戯ややんちゃばかりしていた遥だったが、高校に入ってからは少しおとなしくなり、女の子らしさが増した気がする。


周りから美少女の幼馴染が居ることを羨ましがられてはいるが、俺にとって遥は兄弟の様な存在なので、期待されるような関係ではない。


去年遥は俺と傑とは別のクラスだったが、俺達が仲良くなり一緒に行動するようになってからは、三人で居ることが増えた。


三人で遊んだ思い出は恐らく、俺の高校生活の大半を占めているだろう。


そんな時間が俺にとっては、とても幸せな時間だった。


「友達とはもういいのか?」


「うん、たくさんお喋り出来て楽しかった」


遥は先程まで、去年同じクラスで仲良しだったクラスメイト達とお喋りをしていた。


どうやら一通り挨拶が終わったので、俺らの方へ合流してきたみたいだ。


「今日学校早めに終わるし、そのあと飯行こうぜ」


「そうだな、部活も来週からだしそうするか」


新学期最初の週は授業がなく、学校は午前中に終わる。


俺と傑は部活に入っているが、活動は来週からのため今週は特に予定がない。


「ごめん、私いけないや。今日ちょっと予定があるんだよね」


「そうなのか?」


「珍しいな、いつもは海斗が居たら絶対に来るのに」


「うん、そうなんだけど。ごめんね」


普段、遥から誘いを断ることはあまりなく、俺らがご飯や遊びに行くときは基本的に遥も一緒に着いてくる感じだった。


だからこそ、遥が誘いを断ったのが俺達にとって少し新鮮だった。


「明日は特に予定が無いからまた明日一緒に行こうね」


「絶対だぞ水森」


「うん」


一緒に行けない事は少し残念だが、遥とはいつでも遊べるので、俺達は無理に誘わなかった。


その後、俺達は去年の思いで話をしたり今年皆でやりたい事など、様々なことについて話しあった。


仲のいい友達とのお喋りは、感覚よりも早く時間が過ぎていき、気づくと始業のチャイムが鳴っていた。


新しいクラスの担任が前の教卓に立ち、生徒たちに自分の席に座るようにと促す。


クラスメイト達は各々の席に戻っていき、傑と遥もそれに従うように自分の席に戻っていった。






新学期の一連の流れを終え、俺と傑は遥に挨拶をし、二人で教室を後にした。


俺らは通いなじんだハンバーガーショップに行き、慣れた口調で注文する。


この時間帯の店内はそこまで人は多くなかったが、主婦層の人達や学生服を着た人たちが混在し、皆がまばらに席に座っていた。


俺らは適当に空いている席を探し、窓側の席に対面するように着席する。


それぞれ注文した、ハンバーガーを手に持ちそれを口に頬張る。


食べるのにそれほど時間はかからず、俺達は数分かけそれらを全て平らげた。


食べている間はあまり喋らずにいたが、トレーにあったハンバーガーは全て完食したので休みがてら俺達はお話する事にした。


俺は残っていたジュースを手に持ち、ストローを使い全部吸い込む。


「今週暇だしさ、また海斗の家遊びに行くわ」


「また戦う気か?」


「まあな、この前の決着着けようぜ!」


「あれから少し練習したから傑にはもう負けないぞ」


「俺だってこの前より強くなってるんだ、吠え面かいても知らねえからな」


俺達は最近ある対戦ゲームでよく遊んでいた。


実力にそれほど差が無いため毎回決着がつかずに終わってしまうが、お互い負けず嫌いな性格なので、日々練習を重ねている。


しかし両者共に練習してしまうと、また力が均衡化してしまい、今度の勝負でも決着がつくかどうか分からない。


勝ち負けが決まらないかもしれないが、ここまで来ると俺も後には引けない。


帰った後でまたゲームの練習しようと思った。


この後も俺達はゲームについて熱く語り合い、語り合った後はこの後の予定について話し合った。


今から俺の家に行き、先程話題に上がっていたゲームの決着をつけることが案に上がったが、折角外にいるからという理由で、とりあえずゲームセンターに向かうことにした。


「ちょっと、トイレ行ってくるわ」


ゲーセンに行くためお互いトレイを片付け、傑がトイレに行きたいとのことだったので、俺は先に店の外で待つことにした。


しばらく待っていると、聞きなれた声が俺を呼んだ。


それは傑ではなく遥だった。


声のする方向に視線を向けると、そこには遥と見知らぬ男子生徒の姿があった。


「奇遇だね海斗」


「そうだな」


俺は視線を一瞬、遥の隣に居る男子生徒に向ける。


俺の視線に気づいた遥は、その生徒について紹介しようした。


しかし、遥が紹介するよりも先にその男子生徒が喋り始める。


「初めまして油崎くん、土壌 優紀どじょう ゆうきって言います。話はよく遥ちゃんから聞いてるよ」


「どうも」


雰囲気から良さそうな人柄がにじみ出ており、とても好印象を持った。


遥から仲のいい友達についてよく話は聞いていたが、土壌については聞いたことがなかった。


見た感じ仲良さそうに見えるがどういう関係なのだろうか。


その答えは、次の土壌の一言で判明した。


「遥ちゃんとはお付き合いをしています」


一瞬大きく心臓が動いた気がした。


「そうなんだ」


「よろしくね」


「よろしく」


互いに握手する。


平常心を装うように喋っていたが、思考が安定せず何も考えられない。


「遥ちゃんそろそろ中に入ろうか」


「うん・・・、またね海斗」


「またな・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「待たせたな海斗」


「・・・・いくか」


俺はさっき土壌が言っていた事を、ずっと考えていた。


いつから二人は付き合っているのか?

なぜ遥は言ってくれなかったのか?

本当に二人は付き合っているのか?

これが夢だって可能性は無いのか?


自問自答を何度も繰り返し、ひたすら考えた。


今の俺にはそれ以外の事が考えられなかった。


その後の事はよく覚えていないが、たぶんゲーセンに行ってしばらくの間店内をうろつき、そこで傑と別れたのだろう。


俺は家に帰った後、真っ先に自分の部屋に向かい、ベットに体を預け天井を見上げた。


短いようで長い時間、俺は天井を見続けた。


「俺って遥のこと好きだったのか」


誰に言うでもない、そんな声でボソッと呟く。


遥は昔からの幼馴染で、だからこそずっと側に居てくれると勝手に思い込んでいた。


しかし、失って初めて気づく。


自分の本当の感情を。


俺にとって遥がどういう存在なのかを。


こんな形で気づきたく無かったと、俺は後悔した。




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