第233話
『相川先輩と咲さん、どっちを信じたいわけ?』
楓の言葉に、柊は頬を叩かれたような思いがした。
「宗司さんと、咲さん、どっち……」
「そ。あんた相川先輩から聞いたこと、先輩が嘘つくはずないって思いこんで落ち込んでるけど、咲さんに確認した?」
「いや、だって……」
「だって何? ……あむ」
夕食代わりにと福田が柊に差し入れたおにぎりを、楓は当然のようにパクつきながら追及は止めようとしない。
「だって……もし本当だったら、って……」
「だったら、どうするの? 咲さんのこと嫌いになるの? 別れるの?」
「っ、そんなわけないだろ! 俺はっ!」
「だったら聞きなよ。そんで、安心しなよ」
ほれ、と、勉強机から柊のスマホを取って放り投げる。
「安心……」
「大賢者楓様が予言してやろう。絶対大丈夫。咲さんはあんたを裏切ったりなんかしてない」
「……いつ転生したんだお前」
仁王立ちになって腰に手を当て偉そうに宣下する楓を見ていると、ひとりで悶々としていた自分が途端にばからしく思えてきた。バカなことをやっているのは楓のほうなのだが。
「予言が当たったらアイス三つ!」
「お安い御用だ」
柊は自分が笑っていることに、その時初めて気づいた。
◇◆◇
『……宗司くんが?』
楓に伝えた内容を繰り返すように、咲に伝えた。楓に話したことが予行演習になったようで、今度は冷静に話すことが出来た。
「咲さん、宗司さんに話した?」
『まさか。夏からずっと会ってないし、連絡も取ってないよ』
間髪おかず返ってきた答えに、ほーっと安堵の息を漏らす。横にいる楓も、その様子を見て察したのか、先ほどよりもっと偉そうな態度でVサインしていた。
「ごめん、俺、咲さんを疑った」
安心したら気が緩んだ。やはり咲は咲だったと、楓に感謝しかない。
「俺に相談もなく話したのかな、って。俺より宗司さんを信用してるのかな、とか。でもそれでも仕方ないとも思った」
『柊くん……』
「宗司さんはずっと俺の憧れだったから。ていうか、今でも、だけどさ。だからもしもそうでも、俺に勝ち目ないなって」
『ねえ、私が好きなのは柊くんだよ』
唐突に告げられ、驚いた柊はスマホを取り落としそうになる。何なにー? と近寄ってくる楓から逃げて、再びスマホを耳に当てた。
「きゅ、急にそういうこと……」
『だって、柊くんが変なこと言うから』
「へ、変なこと?」
『私が柊くんより宗司くんを優先しても仕方ない、みたいな。そんな誤解はちゃんと解いておかないと』
「うん……、そうだね」
『あの、だから、そういうことで……、ご、ごごごめんね、急に変なこと言って……』
「今更照れてるの? もう一回言って欲しい」
『だめ! おやすみなさい! 楓ちゃんによろしくね』
「はーい、咲さんおやすみぃー」
横から楓が大声で返事をする。こいつまさか全部聞いていたんじゃないだろうな、と思うと、柊は顔から火が出そうだった。
◇◆◇
柊との電話を切ってから、咲も一人で赤面しきりだった。
しかしそれが落ち着いてくると、何故宗司が知っていたのか、自分や柊が計算ずくの打算で繋がっているような言い方をしたのかが気になった。
(宗司くん、そんな子だったかな……)
初めて会った時の、前夫の後ろに隠れながら挨拶してきた少年を思い出す。
結婚式で昭和のウェディング曲を歌ってくれた。
誠の葬儀では付きっきりで介助してくれて、自分が遁走した時も一人で迎えに来てくれた。
今の咲にとって柊が一番大事であることは本心だった。
かといって、宗司のことをどうでもいいとは思えない。かつては義姉弟であり、彼と共有している思い出もたくさんある。
柊にとってもそれは同じだろう。
(小出社長と和解出来たように、宗司くんとも前みたいに仲良く出来ればいいのに)
それは考えが甘いだろうか。
(どう思う? 誠)
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