第97話
『明日の土曜日、遊びに行ってもいい?』
金曜の朝一で受信した柊からのメッセージを見て、咲は笑みを漏らした。
先日『たまになら』と言ったことをちゃんと覚えて、守っていたらしい。
『構わないけど、うちに来てどうするの? また料理でもする?』
うちで勉強をするのも構わないが、もし一週間頑張ったなら、週末くらい息抜きさせてあげたいと思った。
◇◆◇
(俺は咲さんと一緒にいられればそれでいいんだけどなぁ。何か理由が無いと行っちゃいけないのかな、やっぱり)
以前『料理を覚えたい』と言ったのも完全にただの口実だ。やってみて自分にはあまり適性が無いことも分った。正直今更、とも思う。だが咲と一緒にいたい。
「うーーーーん……」
スマホを片手に唸っていると、出勤準備中の忠道が通りすがった。
「朝から何悩んでるんだ?」
そして柊の手元からスマホを取り上げる。あっ! と思ったが、もう遅かった。父の目は完全に笑っていた。
「なるほど、口実に困ってるんだな」
慌ててスマホを取り返す。柊の顔は真っ赤になっていたが、忠道からすれば隠さずとももう柊の咲への想いなど見抜いている。
「なんだったら家にご招待すればいいだろう。お前があちらへ伺えば当然もてなしてもらうことになって疲れさせるんじゃないのか」
「え? いいの?」
「真壁さんなら全く問題ない」
「やった!」
満面の笑みとなった柊は、早速返信を送った。学校が終わればすぐに帰って、部屋を掃除しようとも思う。咲が自分の部屋に来てくれると思うだけで今からドキドキが止まらなかった。
(俺も明日は休みにするか)
忠道はふとそんなことも思いつく。柊の不愉快そうな顔も想像し、楽し気に一人で含み笑いした。
◇◆◇
「しゅーう! 明日また勉強しに行っていい?」
放課後。とっとと帰り支度を始めた柊の席に楓が飛んできた。
「ダメだ。この週末は家に来るな」
「なんで?!」
「なんでもだ。じゃあな」
ぴょんぴょん飛び上がりながら抗議してくる楓をうるさそうに手で追い払うと、飛び出すように教室から出て行った。
(怪しい……)
「楓っち、またフラれたのー?」
「あんたたちもう付き合っちゃえばいいのに」
「だよねー、桐島くん、彼女いなんでしょ?」
口々に勝手なことを言い募る友人には答えず、楓は顎に指をあてて暫し黙考する。そして一つの可能性を見出し、ニヤリと笑った。
◇◆◇
『じゃあ家に来てよ! 親父もそうしろって言ったし』
「え……」
昼休みに柊からの返信を読んで、思わず声が出る。てっきり柊が一人で以前のように遊びに来るものと思っていたら、再び桐島家に招待された。しかも柊の父まで。
(逆にご迷惑だよね、どうしよう……)
「難しい顔して、仕事のこと?」
背後から声を掛けられた。振り向くとコンビニ袋をぶら下げた宇野が立っていた。隣で下田が睨んでいる様子が見えたが、咲はもう気にしないことにした。
「いえ、仕事のことではないので……」
「そっか。もし僕が振った業務で面倒なものがあればいつでも相談して」
それだけ言うと、あっさり離れていってくれたのでほっとする。睨みつけていた下田の目線も外れる。咲はやっと息をするのが楽になった。
(でも柊くん、もうお父さんに話しちゃってるってことよね……。断ったら失礼かな……)
前回は急だったので手ぶらで伺ってしまった。今度は手土産くらい用意しなければと、どこかいいショップは無いか検索をし始めたのだった。
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