親ガチャ、大ハズレ

で、リーネとトーイが帰ってきてくれたから、


「風呂にするか?」


と問い掛けてみた。するとリーネは、


「はい!」


嬉しそうに笑顔になり、トーイも、


「……」


黙ったままだが頷いてくれる。表情はまだ硬いものの俺に対する攻撃的な姿勢は見えない。これは、トーイにとって俺が、


『攻撃的に対処しないといけない存在じゃない』


ということを示してる。それが大事なんだ。事実上の<保護者>である俺の振る舞いに<筋>が通っているからこそのものだという証拠と感じる。これが、反抗的な態度を示すようになれば、俺の振る舞いに<瑕疵>が生じているという証拠なんだ、


前世じゃ、<親ガチャ>とかいう言葉があったりもしたが、俺自身、


『親ガチャとかいう言葉を使う奴は、自分の努力が足りねえのを親の所為にしてるだけだ!』


と思ってたが、今はまったく認識が違う。なにしろ前世の俺自身が、


<ハズレの親>


だったことを嫌というほど思い知らされているからな。


<親ガチャ>って言葉は、子供の立場で口にすると、


<責任転嫁用の便利な戯言>


になってしまうから、本来は親自身が己を戒めるために使う言葉なんだと今は思う。自分の子供に、


『親ガチャに失敗した』


と思われるような親ではいないようにって自分に言い聞かせるための言葉だと考えると、すごく腑に落ちるんだよな。


それで言えば、俺は、まぎれもない<ハズレの親>だったんだ。俺は、娘を、ゆかりを育てるにあたって……いや、俺は『育てて』さえいねえな。何もかも女房に丸投げして、自分じゃ何の努力もしてねえ。


『金を稼いで養ってたはずだ』


って? いやいや、その金すらごっそり抜いて自分勝手に使ってたしなあ。ゆかり自身も、


『私はお母さんが働いたお金で育った』


みたいなことを言ってたしよ。確実にゆかりにとっては、


『親ガチャ、大ハズレ』


だったのは間違いねえんだ。ゆかりがそれをどうにかしようとして努力したかどうかは関係ねえ。あいつにとって、


<ロクでもない親>


だった時点でそれは<ハズレ>なんだよ。


親の所為にするばっかりで自分じゃ何もしねえような奴は、勝手に言わせとけ。そういう奴らは、<親ガチャ>って言葉を使わなくてもどうせ別の言い方で責任転嫁するだけだからよ。


でも、それと、<まともな親>だったかどうかはまったく別の話だ。


前世で、俺は、ゆかりにとっては間違いなく<ロクでもない親>であり、<親ガチャ>は大ハズレだった。ゆかりが努力したかどうかは、俺自身の評価にはまったく関係ねえんだ。


ロクに家にも帰らねえで、ゆかりのことを育てちゃいねえんだからな。


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