煙たがっていただけなのは
前世の俺は、とにかく自分以外の人間が自分に従ってくれることを<幸せ>だと思ってた気がする。周りが自分の言いなりになってくれることこそが俺にとっての<幸せ>だとな。
でも、そんなこと有り得るか? それこそ独裁者とかになったとしても、本当にそれは自分の言いなりになってくれてるのか? 自分に力があるうちは本音を隠して言いなりになってるふりをしているか、それとも独裁者の権力のおこぼれに預かろうとしてコバンザメのようにへばりついてるだけじゃないのか?
だが、力を失うと、定年退職して俺が退職金を手にした途端に離婚を切り出した女房みたいに、取れるものは取ってとんずらするんじゃないのか? それどころか、『積年の恨み!』とばかりに命を狙ってくるかもしれない。
俺の場合は、女房や娘やリサに見捨てられて高齢者施設でも嫌われ者で、誰にも愛されない必要とされない孤独な老後を過ごす形だったけどな。
前世じゃ<基本的人権>ってのが認められてたからそれでも表向きは介護も受けられてたが、職員らを労うどころか奴隷のようにこき使おうとする俺のことを煙たがっていただけなのは、分かってた。
なのに俺はそれでも、
『目上の人間は敬え!』
『高齢者を大事にするのが当たり前!』
と、社会の建前を盾に横柄に振る舞ってた。そんな人間が敬ってもらえたり愛してもらえたりするはずないだろ。俺だって、そういう奴に対しては、
『勝手に一人で死ね!!』
と思ってたしな。
今、リーネが俺に向けてくれる笑顔は、前世の俺の周りにはなかった。リサが俺に向けてくれてた笑顔すら、俺に対する依存心でしかなかったと思う。
そうだ。リサは俺に依存してた。だから俺に縋ってた。しかし、なんでも<限度>ってものがあるよな。
リサが俺に依存してるのをいいことにそれに胡坐をかいて、<信頼>を得る努力をしなかった。だから限界を超えたリサに愛想を尽かされた。
これも結局、俺自身が招いたことだ。それが今なら分かる。
だったら、リーネの俺への依存を当てにするんじゃなく、新たに信頼を勝ち得ていかなきゃダメだろう。リーネに愛想を尽かされる前に。
しかも今度は、トーイも加わった。こちらも、きちんと信頼を勝ち得ておかないと、男だからな。それこそ命まで危うい。俺自身が両親に対して、
『いつか殺してやる』
と思ってたんだから、トーイに対して俺の両親がやってたことをそのままやったら、血も繋がってないような相手に殺意をためらう理由もないだろう。
<育ててやった恩>? 俺は実の両親にさえそんなもん感じてなかったぞ。あいつらは俺を育ててたんじゃない。奴隷としてこき使ってただけだ。
そういうことだよ。
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