本当に馬鹿げた話

自分の子供を奴隷のようにこき使ったり道具として利用したり、逆にペットのようにただ猫可愛がりするだけで『育ててやった』とか、おかしくないか?


奴隷のようにこき使ったり道具として利用したりペットとして愛玩するってのは、『育ててる』とは言わねーだろ。


道具に、


『買ってやったんだから大事に使ってやったんだから恩を返せ』


って言うか普通? 言わねーよな? 道具やペットとして利用してメリットを享受したのは自分の方だろ。奴隷としてこき使って、自分の自己実現のための道具として利用して、ペットとして猫可愛がりしてメリットを受けてきたじゃねーか。それでもう<恩>は十分に返してもらってるだろうが。元は取ってるだろうが。


その上で『育ててやった恩を返せ』とか、


『道具を買った時の代金を返せ』


と言ってるのと同じだとしか、今の俺は思わないな。


そう考えると、前世の俺の何がダメだったのか、分かり過ぎるくらいに分かってしまう。なら、そのダメな部分を繰り返す意味がない。


リーネは、罠に掛かったネズミを今夜の食事にするための下準備を始める。俺は風呂の用意を進める。トーイは、リーネのやってることを見てるだけだが、それでいい。リーネのやってることを見ててくれるだけで、たぶん勉強になる。


そしていつか、『僕もやってみたい』と言い出してくれたら、やってもらえばいい。前世じゃ、俺も女房も、娘が俺達の真似をしてなにかをやりたがったとしても、『余計なことをすんな!』といってやらせなかった。だから娘は、まともに家事一つできなかったらしい。もちろん大人になってからでも努力すればできるようにはなったんだろうが、


『誰かのためにそれをしてあげたい』


って気持ちを育てなかったのは、親である俺と女房だ。本人がやりたがってるのに『余計なことをすんな!』って言ってな。たぶん娘も、ただ真似をしたかったというのももちろんだが、


『パパとママのためにやってあげたい』


という気持ちもどこかにあったんだろう。俺も女房も、その気持ちを摘み取ってしまった。


自分が楽をしたかったからだ。幼い娘にやらせたら二度手間になるだろうと思って、その二度手間を面倒臭がって自分を甘やかした。成長した娘の姿は、その結果だ。


たまに家に帰った俺を、不審者を見るような、汚物を見るような、不信と蔑みの入り混じった目で見るようなのに、俺と女房がした。


本当に馬鹿げた話だよ。自分で自分を不幸にしたんだ。


女房も娘も巻き込んでな……


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