依存を信頼に

桶に布をかぶせて蓋をしたのは、大成功だった。布だからある程度は浸みて漏れてしまったが、以前の<一輪車>の時に比べれば雲泥の差だ。あの時にも思い付いてればとも思うものの、余分な布さえなかったからな。その所為もあってか発想すらなかった。


ま、過ぎたことは別にいい。今回は約百リットルほどを一度に運べた。これは大きい。理論上は三往復くらいで風呂が満杯になる。


家の庭で湯を沸かす準備をしつつリーネとトーイが果実の収集に入ってる辺りを見る。二人の姿がちらちらと見える。居場所を知らせる布もしっかりと下げてくれてる。


それを見てホッとしつつ、準備を進める。


風呂の脇に作った竈には俺が作った<湯沸し用のでかい鍋>をセット。水を入れて火を熾す。それで沸くまで待てばいい。


他にも、リーネが作った竈の横に新たに三つの竈を作り、集落で回収してきた鍋で湯を沸かす。


で、残りの水はとにかく浴槽にぶち込んだ。が、やっぱりまだ泥水になる。まあ、その泥が体の汚れを吸着してくれるみたいだし、取り敢えずこのままでもいいか。<濁り湯>だ濁り湯。


と、それらが終わったところに、


「ただいま戻りました」


リーネとトーイが返ってきた。集落で回収した布を袋状にして背中に担いで。その中には、ぎっしりと果実が。


「お疲れ様。ありがとう。トーイもありがとうな」


二人を笑顔で労う。こうやって地道に信頼を取り戻していく。リーネの<依存>を、<信頼>に昇華していく。


リーネの笑顔はまだ少しぎこちないし、トーイは口もきこうとしない。先は長いが焦っても仕方ない。


で、


「鍋を見ててくれるか? 湯が沸いたら風呂に流し入れてくれ」


と、果実を家に運び込んだリーネに頼む。


「分かりました」


応える彼女に、さらに、


「火傷には気を付けること。無理はしないでいい。あと、あのでかい鍋は俺がやるから触らなくていい」


と告げる。そうだ。無理をして大怪我でもされたらそれこそ目も当てられない。そんなことは望んでない。


「はい…!」


リーネも少し緊張した様子で返事をしてくれる。


こうして俺は再び水を汲みに行って、戻った。すると、


「トニーさん、ネズミが罠に掛かりました!」


彼女が嬉しそうにネズミを手にして言う。


「おお、そうか! それは何より! じゃあそいつは串焼きにして食おう!」


俺はそう声を上げた。


「はい♡」


この時のリーネの笑顔は、少しだけ以前のそれに戻ってた気がした。


うん、やっぱり違う。間違いなく違う。この笑顔だよ。これが欲しいんだ。俺は。


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