こんなに呆気なく

リーネと二人でネズミの肉を堪能して、果実も食べて、腹ごしらえをして、再び、ひたすら地味な作業に戻る。


コツコツ。


コツコツ。


コツコツ。


コツコツ。


でも、なぜか楽しい気がする。リーネと一緒だからか? そうだな。間違いなくそうだ。彼女が俺のすぐ傍で、なんだか楽し気にコツコツと石を叩いている気配が、俺にとっても楽しい気分にさせてくれている。


ああ、幸せだ。本当にどうでもいいくだらないことのはずなのに、幸せなんだ。こうしているのが幸せなんだよ。


ちくしょう。前世で八十年かけても得られなかったものが、今、こんなに呆気なく手に入ってしまった。


だからこそ、こんな地味で地道で普通に考えたら退屈極まりない作業でも苦にならない。楽しめる。


苦にならないから、時間を忘れて打ち込める。


で、気付くとまた、大量に角を落とした石が溜まってた。


「お~し、並べてくか!」


俺は再び気合を入れて、石を並べていく。と同時に、手で触れてみて、ちゃんと角が取れてるか痛くないか、確かめながら組み上げた。


そして日が暮れるまでには、全体の七割ほどが石に覆われた状態になった。


「いい、いいな。いい感じだ。これなら明日にはほぼ完成しそうだ…!」


俺は気分が高揚してた。するとリーネも、


「楽しみです、FURO♡」


満面の笑顔で言ってくれる。


夕食は果実と木の実だけだったが、なんだか気分が良くて、それでも十分に満たされた。


加えて、体を拭くだけの毎日ともおさらばできるかもな。


ああでも、まだまだ油断はできない。素人がやったことだ。実際に湯を張ろうとしてどんな不具合が出るか分かったもんじゃない。


と、考えてみれば、大量に湯を沸かさないといけないのに、使える鍋が一つしかないじゃないか……!?


うう……そうなると、しばらくの間は水風呂か……? 


いや、待てよ? 前の世界じゃ、『焼いた石を鍋に入れて沸かす』ってのもあったよな? なら、竈で石を焼いてそれを放り込んだら湯が沸くんじゃないか?


よし、これだ! 浴槽が完成したら早速試してみよう。


ははは、俄然、盛り上がってきたぞ。




そんな調子で盛り上がった気分のままリーネとベッドに横になって、俺は、<聞いた話>として、風呂や温泉にまつわる話をリーネに語って聞かせた。


『すごく疲れが取れる』


とか、


『夜もよく眠れるようになる』


とか。


『生き返った気分になれる』


とか。そんな俺の話に、彼女も、目をキラキラとさせながら聞き入ってくれる。


「それはすごく楽しみです…! 私もFUROに入ってみたい……!」


リーネの期待も大きく膨らむのが伝わってくる。これは頑張らないとな……!


俺は一層、気合が入ったのだった。


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