気合入れてたから

が、翌朝は、


「雨かよ……」


目が覚めた俺は、外が薄暗いのと家を包む音で、雨が降っていることを察してしまい、つい、忌々し気に呟いてしまった。すると、


「トニーさん……」


リーネも目を覚まして、不安そうなかおで俺を見ていた。


「あ、ああ、すまん。今日中に完成させようと気合入れてたから、つい、な」


リーネを怖がらせてしまったと感じて、俺は素直に詫びる。彼女に苛立ちをぶつけて憂さ晴らしをしたくなかったからな。


で、家の外に出て作りかけの風呂を見ると、三分の一くらいの深さまで、<泥水>が溜まっていた。やはり、石で覆われていなかった部分の土が雨水に溶けて泥水になってしまったんだ。


まあ、ちゃんと石を敷き詰められていたところで、たぶん、最初のうちは石の隙間から土が溶けてしみだして濁るくらいのことは覚悟してた。してたが、これはさすがにいい気がしない。


とは言え、自然相手に苛立っても仕方ない。それでリーネの前で不機嫌になって彼女を怖がらせるなんてそれこそもってのほかだ。


だから、


「ま、こういうこともあるさ…!」


自分自身に言い聞かせるようにして呟き、俺は家に戻った。


今日は、桶を外においてそこに雨水を溜めることにして、水汲みも休みだ。食べるものは、リーネが頑張って果実や木の実を集めてくれてたから、まだ二~三日はもつ程度の量はある。


だから、<樹皮鞣し>を試していたネズミの革の状態を確かめてみた。


「お…? ひょっとしたらもういけるか……?」


予定していたよりはまだまだ早いが、さすがに革が薄いからか、少なくとも口で噛んで鞣したそれと変わらない感じになってた気がする。


もしかしたら十分じゃないかもしれないにせよ、なんでも実際に試してみないとな。


そんなわけでそのネズミの革は干して様子を見ることにして、今度は、昨日のネズミの皮をそのまま浸け込むことにした。


俺がそんな風にしてる間にも、リーネはベッドの手直しをしてくれていた。大きな<木の箱>に干した枯れ草を詰めただけのベッドは、手入れしないとすぐにヘタレてくるからな。で、リーネが延々と草刈りして干して乾かした草を補充して、整えて、その上に布を敷いて完成だ。


これも、子供の頃に散々やらされる仕事の一つだ。でも、リーネはなんだかとても楽しそうに作業をしてくれてた。俺と一緒に寝るベッドだから、ちゃんとしたいんだろう。


そんなリーネの様子を見てるだけでも俺もホッとする。


なんだ。雨もそんなに悪くないじゃないか。


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