超有能

思いがけない<いい匂い>に、俺はむしろ戸惑っていた。こんな美味そうな匂い、今世に生まれてからついぞ嗅いだ覚えがない。


「これは……?」


問い掛ける俺に、


「はい、ニオイバナがあったので、プディングにしてみました」


リーネが笑顔で応える。でも俺は余計に頭が混乱して、


「ニオイバナって、あのびっくりするくらい臭っせえ花のことか?」


訊き返してしまう。すると彼女は、不安そうな表情になって、


「え……? ダメでしたか……? お嫌いですか……?」


声が小さくなる。俺はそんな彼女の様子に慌てて、


「あ、いや、そうじゃなくて、ニオイバナって料理に使ったりするんだ……?」


言い直す。実際、俺がいた村では子供が悪ふざけにニオイバナを他の奴に擦り付けて、


『くっせぇ! こいつ、ウンコ漏らしやがった!!』


とかやる用にくらいしか使い道なかったから。


リーネはようやく察してくれたみたいで、


「は、はい。私の村では、こうやって血のプディングを作る時に使うんです。こうすると血の生臭さが消えて。しかも、ハーブもいろいろ生ってましたから、香り付けができたんです」


って。


はあ!? なんじゃそりゃ! なんでその料理法が俺がいた村には伝わってなかったんだよ!?


と思ったが、リーネがいたであろう村は、一応、別の国で人種も違ったから、直接の交流はなかったんだったっけ……言葉はちょっとした方言レベルにしか違わないのによ。


くっそう……人間ってどうしてそういう部分で妙な拘り発揮しちゃうんだろうな。いい文化はどんどん学習して取り入れて行きゃいいのに、『隣国だから』『人種が違うから』で敬遠して何もかも遮断しちまうんだろう……もっとこう、合理的に考えられないものか……?


って、前世でもそうだったか……どこぞの国なんて、いいところを学んで自分らも変わっていきゃいいのに、気に入らない国を悪者に仕立て上げて政治的に利用するばっかりでってしてたしな……


はあ、やだやだ……


なんてことを考えながらも、


「そうだったんだな。俺の村じゃそんな使い方しなかったから知らなくてよ。ごめん」


リーネを不安にさせたことを詫びた。なのに彼女は、


「いえ、そんな…! 私の方こそ先に訊くべきでした……!」


とか、恐縮するんだ。くう……ホントいい子じゃねえか……しかも、超有能だし。


鍋には、木の枝をナイフで削っただけの<ヘラ>(鍋に入れたものをかき混ぜるためにリーネが自分で作ったんだろうな)が入ってて、俺はそれで血のプディングをすくって、口へと運んだ。


「!?」


たぶん、前世で食べたら『なんだこりゃ?』って思う程度だったかもしれないが、こっちじゃこんなの味わったことがねえ……!


美味うまっ!!」


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