食えりゃいいだろ

俺がそうやって鉄を打ってると、リーネが、ウサギの血を入れた<二つ目の鍋>を持って家の外に出ていった。


「?」


『命のすべてをいただく』とは言ったものの、ここまで<血>に関しては残念ながら捨てていた。実は血も貴重な栄養源なんだが、さすがにそのまま飲む気にはなれない上に、利用するにも道具もなかったから、そのまま自然に返してたんだ。


が、鍋が手に入ったことでリーネはそれを活かそうとしてるんだろう。これも、この辺りに住む奴なら大体やってることだ。


『血を煮詰めて煮凝りを作る』


ってのをな。


血ってのは栄養価が高く、しかも<薬>のようにも考えられていて、大体どこの家庭でも動物の血を使った料理は出てくる。一般的なのは、血と一緒に炒めるんだ。


ただこれは、たぶん、慣れないと臭くてとても食えたもんじゃないと思う。俺も物心ついた頃から食べさせられてきたから舌が慣れてしまってて食えたが、それがなかったら吐いてたかもしれない。


とは言え、前世でも動物の血を使った料理は実は世界的に見てもそれほど珍しいものじゃなかったから、調理法によっては美味くもなるんだろう。なるんだろうが、残念ながらここにはその<美味くなる調理法>ってのがないんだよ! 壊滅的に!


典型的な、


『食えりゃいいだろ』


って考えの下に作られる料理ばっかりで、マジで、


『ただの串焼きの肉に塩をまぶして食うのが一番美味い』


ってレベルだからな。で、リーネも、鍋が手に入ったんだから早速とばかりに本格的な料理を始めるつもりなんだろう。


しかし俺自身は、


『串焼きの肉でいいんだけどなあ……』


と思ってしまっていた。今世の母親が面倒臭そうに作ったいい加減な料理が頭をよぎってしまってな。


さりとて、


『リーネがせっかく作ってくれたんなら食べないわけにもいかないよな……』


なんてことも思ってしまう。実際、彼女の作るものなら食べていいかなとも思える。まあ、味を見てその後もそう思えるか、自信は持てないが……


いずれにしても、一回は食わないといけないだろうな。その上で、どうしても無理ならその場でちゃんと口にしよう。嫌々食っててそれが態度に出たら、彼女も傷付くだろうし。


なんてことも考えながら鉄を打っていると、


「トニーさん、お仕事が終わったら、少し、休みませんか?」


リーネが俺に声を掛けてきた。と、なんだかいい匂いが。


ちょうどキリのいいところまで作業を終わらせてたから俺も手を止めて、彼女が手にしていた鍋を覗き込んでみた。匂いはまさにそれから漂ってたんだ。


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