他の奴らが俺を労うのが先だ
前世の俺は、
『まず、他の奴らが俺を労うのが先だ』
と思っていた。俺はこんなに頑張っているんだから、まず俺が労ってもらえるのが当たり前だと思ってたんだ。
でも、それはおかしいよな。なにしろ、世の中には俺以上に頑張ってる奴なんていくらでもいたはずなのに、なぜか俺が一番頑張ってると思い込んでいたんだ。
なんでだ? なんで俺はそんな風に思い込んでた? 実際に俺も頑張ってたのは事実だとしても、俺以外の奴は頑張ってなかったのか? 俺より頑張ってる奴がいないなら、なぜ、世の中には俺より評価を受けてる奴がいた?
前世の俺は、それを、
『運がよかっただけ』
『甘やかされてるだけ』
『ゴリ押しするために評価が盛られてるだけ』
と考えてたように思う。要は、
『本人の頑張り以上に評価を受けている』
と思ってたわけだ。<嫉妬>だよな。完全な嫉妬だ。自分より評価される奴がいることを認めたくなくて、そうやってこじつけてただけだ。
確かに、本人の頑張りや努力や実力以上に評価されてた事例もあったんだろう。しかしすべてがそうだとする根拠なんか、俺にはなかった。世界のすべてが見通せるわけでもなかったのに、俺は、何もかもを見通し理解してるつもりになって、分かったつもりになって、他人を見下してたんだ。
情けない。こうやって生まれ変わって他人の立場でかつての自分を省みることができるようになってようやく気付くとかな。
リーナは、なるほど俺と同じことはできないのかもしれない。だがそれは、俺の方が長く生きて経験を積んできてるだけであって、俺の頑張りだけで努力だけでそうなったんじゃないんだ。むしろ長く生きて経験を積んでる分、俺の方がいろんなことができるのは別に普通のことなんだよ。偉いわけでもなんでもない。
俺が鉄を打ってる傍らで、リーネがウサギを捌いてる。血を抜き、毛を切り、皮をはぎと、前世じゃ大人でもほとんどの奴ができないであろうことを、淡々と。
今世じゃ俺だってできるが、前世の俺はそんなこと、
『なんで俺がしなくちゃいけねーんだよ。そういうのを仕事にしてる奴がいるんだからそいつにやらせろよ』
と、一ミリも疑いなく思ってた。でもここじゃそれは通用しない。子供のうちに大体やらされる。嫌でもなんでもな。
でもそれは、確かに役に立ってることもあるものの、少なくとも俺にとっては、親への殺意も同時に植え付けるものだった。それも事実なんだ。俺が今世の両親を殺さなかったのは、たまたまきっかけがなかっただけだ。
黙々と鉄を打ちながら、俺はそんなことを考え続けてたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます