やっぱりいいぜ
が、
しかし、俺は何となく察していた。
「やっぱり…!」
炉の灰を掻き出してさらにその下の土をどけると煉瓦が出てきて、さらに煉瓦をどけると、鎚とやっとこと地金が出てきた。この手の道具や地金は盗まれることもあるから、俺の今世の父親も同じようにして予備を隠してた。道具や地金を盗まれることももちろんムカつくが、それ以上に新しくそれらを用意するまで仕事ができなくなるのが困るんだ。だからこうやって予備を確保しておく。
しかもここに住んでた職人は、痛い目を見たことがあったのか、ご丁寧に二組、予備を確保してたようだ。こりゃありがたい。
一組取り出して、もう一組はまた煉瓦を戻して土をかぶせて、隠しておく。こうしておけば炉を使ってる時はそれこそ手が出せないし、実際に同じ隠し方をしてる奴でないと気付かないだろう。俺だって、父親がそうしてなけりゃ思い付くこともなかっただろうな。
で、早速、炉に火を入れてみる。ふん、どうやら問題なさそうだ。
しかし、ここに住んでた職人は、
集落から少々遠くてそういう意味で不便なことを除けば、かなり上等な物件だな。職人が死んだ後、同じ鍛冶屋を営む奴が入ってもおかしくなかっただろうが、やはり『遠くて不便』ってのがネックになったか。とは言え、俺とリーネにとってはそれこそがメリットになる。
一方、岩を加工してそんなものを用意しているかと思えば家そのものは粗末な掘立小屋というのが、鍛冶と石工以外にはさっぱりだったんだろうなと窺わせる。
まあ、俺も、別に家の方は雨露が凌げればそれでいいけどな。
生活用水を溜めておく方の桶も岩をくりぬいて作られた、そういう意味では上等なものだった。そこにリーネが汲んでくれた水を手桶で焼き入れ用の桶に移し、準備を整え、地金をやっとこで掴んで炉に入れ、赤くなったところで早速、鎚を振るってみた。
カーン! カーン! と、鎚が鉄を打つ音と共に焼けた破片が花火のように飛び散る。数日ぶりのそれに、俺のテンションも上がる。
ああ、いいな……やっぱりいいぜ、この感触、この匂い。
「あの……水汲み、終わりました」
背後からリーネが遠慮がちに声を掛けてくる。
「おう! ご苦労さん! しばらく休んでろ!」
鍛冶の仕事を再開できたことで自分がニヤけてるのを自覚しつつ、俺は応えていたのだった。
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