人間ってのは本当に業の深い生き物だぜ
前世での俺も<ものづくり>に携わる仕事だったはずだが、正直、その実感はほとんどなかった。売り上げの数字ばかりを見ていて、自分が売った工作機械が現場でどう使われているのかなんて、興味もなかった。故障したら、
『どうせこっちの指示通り使わなかったんだろ? ふざけんなよ』
とか思ってた。
いや、確かにこっちが指示したとおりに使わなかった結果として壊したという事例もあっただろうが、単純にこっちが、クライアントの要求する性能を達成できてなかったことで壊れた事例もあったはずなんだが、当時の俺は、何でもかんでも、
『相手が悪い。こっちは何も悪くない』
って考えてたな。これは、俺の前世の両親の考え方そのものだった。そして、今世の両親も、基本的には自分が失敗しても間違っててもそれを認めようとしない奴らだ。
が、こうして百年分の人生経験を振り返ってみて、
『自分は悪くなかった』
事例が案外、少ないんだってよく分かったよ。相手に原因があったとしても、話を拗れさせたりしたのはこっちの対処がマズかったからってのも実に多い。
クレームに対してキレるから火に油を注いで燃え上がるってこともザラにあったな。
しかも、双方、
『自分は悪くない』
と考えてるから冷静になれないし客観的に状況を見られない。
前世の俺は、典型的なそれだったな。女房や娘との関係だって、元々、俺の態度に問題があって、それで女房や娘が反発したのが始まりだろうってのは、こうして転生して前世の自分を客観的に見られるようになったからこそ思えるしな。
人間ってのは本当に業の深い生き物だぜ。
現実を見ないから、些細な問題を拗れさせて大きくする。自分は頭ごなしに相手から言われたらキレるクセに、自分以外の奴に対しても頭ごなしに怒鳴り付けたりする。
そりゃ、言われた方はいい気はしないだろ。自分だって誰かに頭ごなしに怒鳴られたら、内心ではキレたりするし、
『後で思い知らせてやる』
とか考えるじゃねえか。それと同じだってなんで分かんないんだろうな。
ただ、体が動くままに鉄を打ちつつ、そんなことを考える。もしかしたらこんなふうに雑念があるから俺は今世の親父に勝てないのかもしれねえが、まあ、いいだろう。
あれこれ考えながらこうやって鉄を打ってると、モヤモヤしたものが消えていくのも感じるしよ。
それに俺はまだ若い。職人としてのキャリアが、倍以上違う。だったら勝てなくても当然というのもありそうだ。
とは言え、『勝てなくて当然』って考えに逃げてたら、向上もしないけどな。
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