そうして今度は集落を目指し歩き始める。


すると、しばらく山を下ったところで、それこそ獣道のようなものが斜面を上っていることに気が付いた。とは言え、ほとんど草に埋もれかけてるけどな。こっちの世界で散々、獣を獲ったり山菜を採ったりってことで山の中を歩かされたことで察せられるようになっただけだ。


「ちょっと待ってろ。すぐ戻る」


俺はそう言って、獣道を上がっていった。で、三分も歩かないうちに、


「やっぱり、家だ。しかも、放置された」


少し開けた場所に、いかにも<掘っ立て小屋>風の家が建っていたのが見えた。でもまあ、雑草に埋もれかけた、明らかに誰も住んでないのがすぐ分かる家だった。


しかも、俺には予感があった。家の造りを見た時にピンと来たんだ。


そしてリーネを迎えに戻って、それから彼女と一緒に再び家のところまできた。


「ちょうどいいのが見つかったぜ。ここを俺達の家にしよう」


現代日本じゃ、廃屋だからって勝手に住みついたりすると犯罪になるが、ここじゃまだそこまで制度も整備されていない。敢えて人里を嫌って山の中に居を構える人間も、そんなに珍しくもない。そういう奴らが住んでいた家が所々に残されているんだ。俺の村の近くの山中にも、その手の廃屋はいくつもあって、俺も、子供の頃、<秘密基地>と称してそこでサボっていたこともある。


が、その代わり、結構な確率で、住人の死体が転がってたりするんだ。大抵は白骨化したものだが、一度だけ、まさに猛烈な腐敗臭を放ちながら<液化>している真っ最中のに出くわしたこともある。いやはや、前世でお目にかかってたらトラウマものだっただろうな。


でも、こっちじゃ割と人間の死なんざすごく身近なもので、死んだ村の住人の埋葬を手伝わされたことも何度もある。とにかく墓穴を掘って、何人かで手足を掴んで持ち上げて、放り込むんだ。扱いも実に雑でよ。


<故人への敬意>


なんざ欠片も感じられなかったよ。


しかし、今回は……


「誰も、いねえな。死体もねえ」


メリメリと音を立てながら強引に扉を開けて中を見たが、そこは<もぬけの殻>だった。ただ同時に、何度も嗅いだことのある臭いがする。


死んだ人間の体が出す臭いだ。それで、


『ふん…おおよそ一人で暮らしてた偏屈な職人が死んで、様子を見に来た奴が見付けて葬ったってところか……』


と察したんだ。


なんでそんなことが分かるんだ? って? そりゃ、家の中が完全に<鍛冶屋のそれ>だったからだよ。


やっぱり俺は運がいいぜ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る