日が傾き始めた頃、雨はやんだが、当然森の中はびしょ濡れだ。ある程度は乾いてる場所でないと落ち葉に潜って寝ることもままならない。なので、取り敢えず、濡れずに寝られそうな場所を探す。


「気を付けろ」


濡れた落ち葉はさらに滑りやすく、しかもさすがに靴の中にまで滲みてきた。ぐちゃぐちゃと靴の中で音がして滑って気持ち悪いわ歩きにくいわで、散々だ。


しかし、おかげで、<洞窟>とまでは言えない、岩が重なってできた<窪み>を見付けることができた。奥行きは一メートルほど、高さは俺の肩までくらい。幅もその程度と、横になって寝られるような広さじゃないが、幸い、水は入り込んでいない。


まあとにかくそこに腰を下ろして、靴を脱ぎ、干しておく。朝までには乾かないとしても、少しはマシになるだろ。


「リーネは、大丈夫か?」


「はい」


自分でも分かるくらい、彼女に掛ける声が柔らかくなってる。我ながら現金なもんだ。前世では、実の娘にさえこんな感じで声を掛けた覚えがない。


まったく……


腰を下ろして落ち着くと、移動の途中で採ってきた果実をリーネと分け合って食う。正直、物足りないが、仕方ない。


岩の壁にもたれかかり、リーネを抱き寄せると、彼女も俺に体を預けてくる。こうしてこの日は、そのまま眠った。


翌日は快晴。靴はまだ湿っていたがそれを履き、一気に尾根を越えることを目指す。座った状態で寝たから体がバッキバキだがこれも仕方ない。尾根を越えれば、見晴らしのいいところなら、集落が見えるはずだと考えて気を逸らす。


「リーネ、きついかもしれないが、頑張れるか?」


「はい、頑張ります!」


「いい返事だ。でも、無理はしなくていい。どうしても辛かったら言え」


「分かりました」


そうやり取りし進むと、<道>に出た。道と言っても、獣道を人間が何度も辿ることで多少は通りやすくなってるだけのものだけどな。しかし、俺達の通ってきたところが、人間の活動範囲からそう遠く離れてなかったという証拠だ。正直、ホッとする。


まあ、元々、たどってきた沢自体が、<道>からも見えるようなものだったんだけどな。変に人間に出くわさないように敢えて沢を選んだというのもある。


リーネの集落の奴と出くわして誘拐犯扱いされても面倒だし。


だが、ここからはそのリスクを取ってでも安全確実に、せめて集落が確認できる辺りまで急ぐ。そろそろ山の中での野宿は辛くなってきたというのもある。


そうして遂に尾根を越え、見晴らしのいい場所に出ると、


「よし、集落だ。やっぱりこっちまでは、軍隊も来ていない」


なんだかんだ言っても、人間の気配があるところに来ると安心するな。


『気配はあるが、直接は顔を合わせない場所』


ってのが、一番、落ち着く気がする。


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