分かりやすい救い

出会って間もない見知らぬ男、しかも人種まで違う相手にここまで気を許すというのは不思議かもしれないが、精神的に追い詰められてる人間ってやつは、目の前に分かりやすい救いがあるとついそれに縋ってしまう傾向にはあると俺も思う。


叔父夫婦の下での生活が、リーネにとっては、


『出会って間もない、人種さえ違う見知らぬ男に縋る』


よりも有り得ないことだったというわけだな。


……まったく…なんでこんなお人好しのガキが辛い思いしなきゃなんないんだ。クソ過ぎるだろ。この世ってやつは。転生して、平行世界かなんか知らないが別の世界に来てさえ、


『世界のクソっぷりをまざまざと見せつけられる』


ってのは、マジでムカつくぜ。だが、それも、心掛け次第じゃ、


<自分自身が招く不幸>


ってやつは回避できるんだよな。何しろ、<自分が作る不幸>なんだから、当然だ。


「リーネ……俺と一緒に暮らそう。俺がお前の親になる……一緒に幸せに……は難しいかもしれないが、少なくとも今よりは辛くない人生を送ろう……」


などと、俺も、出会って数日の十三(実年齢十二、見た目は十歳未満)のガキ相手に何言ってんだと自分でも思うが、出会いってのは、えてしてそういうものなんだろうな。それまでのあれこれをぶっ壊しちまうことさえある、破壊力抜群の<転機>にもなる。


前世じゃただの犯罪でも、今世でも厳密には犯罪でも、それも覚悟の上でやるさ。どのみち、今のままじゃ俺自身、子供の頃の恨みもあるからどこで父親をぶっ殺してもおかしくないしな。リーネのためなら、それも抑えられそうな気もする。


そうだ。


<リーネを守るためという言い訳>


があれば、いろいろ踏ん切りもつきそうだ。




そうして、ほとんどただの成り行きとは言え、リーネを自分の子として受け入れることになった。


前世じゃ、血の繋がった自分の子供さえ愛せなかった俺が、まったくの赤の他人を我が子として迎え入れるってんだから、いやはや、とんでもない変化だ。


やっぱりいくら記憶があっても今の俺は<阿久津あくつ安斗仁王あんとにお>じゃなく、<アントニオ・アーク>だということだな。


それでも百年分の人生経験は伊達じゃない。突然子持ちになると決めても、思った以上に平然としてられる。前世の失敗が基準点になる。


とは言え、まずは生活の基盤を何とかしなくちゃな。


が、前世の日本じゃ勝手に山で山菜を採ったり罠を仕掛けてウサギやイノシシを獲ることさえ迂闊にできなかったからな。実はそういう点じゃ、こっちの方が融通は効くんだ。


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