たからもの

こうして食事を済ませると、俺はまた、周囲に罠を作った。リーネの服が乾くまで移動できないから、今日はここで野宿になる可能性があったからな。


「私も、手伝います……」


そう言ってリーネも、罠を作り始めた。そのために、彼女が持ってた小さなナイフを渡してやる。それこそ<ペティナイフ>みたいな頼りないものだ。俺が自分で作って使ってるでかいナイフに比べればまるっきり玩具おもちゃのようにも見えるが、持ち手などを見れば普段から使い込んでるのが分かる。


そんなこんなで、罠を作りながらも、リーネは、何度も振り向いて何かを見ていた。最初は何を見てるのか分からなかったが、どうやら、彼女のゴネルを洗う時にポケットとかから出したものを置いた石を見てるんだと察する。


ナイフは渡したから、あとは火打石と、何のために持っていたのかよく分からない小石だけだ。


火打石は失くしたら怒られるだろうから気にするのは分かるにしても、気にし過ぎじゃないか? よっぽど親が怖いのか。


俺はそんなことも思いつつ、罠を作り続ける。


んでもって、日が傾き始めた頃、一通り作り終えて、リーネのゴネルを確かめるが、う~ん、まだ微妙に湿ってる気がするな。前世の世界じゃ洗濯機で脱水するとしっかり脱水できるからか割とすぐに乾いた気がするんだが、やっぱり人力じゃこの程度か。加えて、生地も乾きやすいそれじゃないってのもあるのか。


つくづく不便だが、文句を言ってたって始まらない。洗濯機や乾きやすい生地を作る知識も技能もないんだから、今あるものでどうにかするしかないんだ。


仕方ないから、焚火の埋火を使って再度火を熾して、リーネのゴネルをあぶる。そうしてほとんど乾いたところで、彼女に渡した。すると彼女はもうためらうことなく俺の前で服を脱いですっぽんぽんになり、自分のゴネルに着替える。


俺も当然、返してもらったゴネルを着て、それから、リーネに渡すために、石の上に置いてあった火打石を手に取った。その時、


「……」


よく分からない小石の目に入ったが、別に要らないだろと思ってそのままにしよとうとしたものの、なんとなく気になってそちらも手に取り、


「ほらよ」


リーネの前に差し出した。すると彼女は、火打石より先に小石を手に取り、それから火打石を手に取った。しかも、小石の方を大事そうに握りしめる。


「なんだそれ? 宝石かなんかか?」


確かにちょっときれいな石ではあったにせよ、一見しただけじゃとても宝石とは思えなかったが、磨く前の<原石>かもしれないとも思い、訊いてみた。すると彼女は、


「たからもの……」


と、小さく応えたんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る