6.5 お風呂あがりの匂い
「それにしても、すごいキレイな髪……とても野宿した後とは思えないよ」
お風呂あがり、フェリィの長い髪をブラシで梳きながらかもめは思わず感嘆の声を漏らした。銀色に透き通ったシルクのようなそれは、指でひと撫でするだけでスルスルと解けていき、この世のものとは思えない穏やかさで優雅に波打つ。もしこれがハープなら、さぞかし澄んだ音を奏でただろう。
「あと、めっちゃいい匂いするんですけど……あの、シャンプーはどちらを?」
「……? 知ってるでしょ? さっき、かもめが使っていいって言ってた紫の容器の」
「不公平だ!」
「???」
「同じシャンプー使ってるのに、なんで私からはミルクみたいな匂いしかしないの!?」
要するに子供っぽい匂いだ、とかもめは言いたかった。実際、匂いに関係なくかもめは自分の事を子供っぽいと思っていた。だから、尚更大人びた匂いを放つフェリィにコンプレックスを感じていたのだ。だがフェリィは、何を怒っているのかまるでわからない、といった様子でかもめの方へ視線をやる。
「どうして?」
そして、立ち上がってから後ろに回ってまだ乾ききっていないかもめの髪に手を添える。そして。
「わたしはすきよ、ミルクの匂い。優しくて、安心するもの」
肩のあたりから後頭部まで、フェリィは自分の鼻でかもめの髪をなぞった。
「っ!?」
瞬間、かもめの体が思わず跳ね、3歩ほど飛びのいた。その奇怪な行動に、不思議そうな顔をするフェリィ。
「どうしたの?」
「いや、な、ななんでもない。ちょっと、こそばゆかったっていうか、恥ずかしいっていうか……」
「どうして? 褒めただけなのに」
「…………ごめんなさい」
何も言い返せなかったかもめは、しばらくソファの隅っこで縮こまるしかなかった。そんなかもめの髪を、今度はフェリィがブラシで優しくなでる。
恥ずかしさかいたたまれなさか、説明のつかない謎の胸の高鳴りに体が固まってしまったかもめは、その後の夕食の時間まで、フェリィの成すがままにされるしかなかった。
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