第13話 『暗雲』
今まで通りと言ったけど、桂吾がいないのに、今まで通りにできるはずがなかった。
1ヶ月後にライブハウスでのライブが迫っていた。
俺たちは、3曲の予定。
ギターが一本になるから、曲目の変更と、やる曲の編曲を瞬がした。
ピアノかギターかだったら、バンドとしてはやっぱりギターが必要だから、瞬はギターに専念することになった。
ライブは、桂吾がいなくても、遜色なくできた。
だけど、ライブが終わった直後に、瞬は当分の間、ライブはやりたくないと言った。
もうギターを弾きたくないとまで言った。
大輝は、わかったと一言 言っただけだった。
瞬はスタジオでも、バンドとは関係ない、モーツァルトとかショパンの曲をピアノで弾いていることが多くなった。
大輝は、そんな瞬に何も言わなかった。
俺は、みんなが演奏してくれないから、歌うことも出来ずに、スタジオに行っては、瞬のピアノを子守唄にして眠っていた。
悠弥は、早々に女をつくった。
水商売の女らしかった。
本気じゃないのは見え見えだけど、この女にのめり込むことで、桂吾がいない現実から目を背けたかったんだろう。
本流から切り離されて、俺たちは、どう流れたらいいのかもわからずにいた。
進むべき道が、わからなくなっていた。
スタジオに集まってはいても、各々が別々の方を向いているような感じだった。
今更ながら、俺たちは本流に引き寄せられた支流なのだと思い知った。
桂吾
桂吾を感じたかった。
だけど、フランスなのか、どこにいるのかもわからない桂吾を感じとることはできなかった。
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