第12話 『旅に』

 最後の最後、桂吾と話をしたのは大輝だった。

仕事中に、携帯に電話が掛かってきた。

見ると、公衆電話から。

出てみたら、桂吾からだった。

「大輝~、オレ、ちょっと旅に出てくるからさ〜、明日の面談はキャンセルにして!

ごめん!大輝」

一方的に話して電話は切れた。

は?なんだよ?って、桂吾の携帯にかけ直してみたけど、解約されていた。


ちょっと旅に、って言ったけど、どこへ?いつまで?

大輝と悠弥が、桂吾の家へ行って、おばあちゃんに聞いてきた。

ちょっと、フランスのばあちゃんちへ行ってくるわ!って、前日にそう言って、次の日の早朝出て行ったと。

おばあちゃんを心配させないように、そうなんですか〜フランスなんだ〜いいですね〜とか言って帰ってきたと。

本当に、フランスへ旅立ったのかもわからない。

とにかく、俺たちの前からいなくなった。


 それぞれが、自分のせいだと言い始めた。

悠弥は、ボクシングジムでのことを話した。

無理して笑ってるから、足踏みしてるだけで、前へ進んでいけないんじゃないのか!悲しかったら、全部放り出して、泣いてたっていいと思うぜ!って

「そしたら、桂吾泣いたんだよ……あいつ、今まで泣いたことなんて1度もなかったのに、ポタポタ涙流して泣いたんだよ……俺の前で、あんなに……」

そういうと、悠弥は堪えきれずに、う、う……と泣き始めた。


「悠弥のせいじゃないよ!俺だよ!俺が桂吾を追い詰めちまったんだ」

瞬が、言い出した。

「桂吾の作ってきた曲に手を加えた。全くの別物に作り替えた。全否定だろ!あんな曲を作るくらいの精神状態なのに、なんも変わらず、いつも通りに笑ってたよ!俺が追い詰めた……ここにいられないくらいまで……」

そこまで言うと、腕で顔を隠した。


「いろいろあっても、最終的なトリガーは、俺との面談だろ。おまえらのせいでも、なんでもない。桂吾自身の問題だ。それと、それをなんとか出来なかった、リーダーとしての俺の責任だ」

大輝が、小さな声でそう言うと、悠弥は、う、うー!と更にデカい声で泣き出し、その場にうずくまった。


違うよ……違う……

気づかなかったのと、気づいていて傍観していたのとでは、罪の大きさが違う。

俺は、こうなることがわかっていた。

わかっていたけど、無理なんだ!変えることはできない!

本流の流れを、俺が、俺たちが、どうこうできるもんじゃないんだ。

だから、言いかえれば、悠弥のせいでも、瞬のせいでも、大輝のせいでもない。

どう流れるかは、本流次第。

「桂吾が帰って来るのを待とう。いつでも戻ってこられるように、今まで通りにバンドを続けよう!」

と俺は言った。

「あぁ、そうだな」

と大輝が答えた。

瞬と悠弥は何も言わなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る