第11話 『……』

 その冬から春、俺は桂吾を見守っていた。

いや、傍観していただけだったのかもしれない。

俺にできることは、なにもなかったし。

桂吾は、楽しい気持ちと、不安な気持ちが入り混じった状態で、不安定だった。

だんだんに、どんどんと桂吾はおかしくなっていった。

表面上は、変わりない。

いつものように、おちゃらけていたし、真面目にレッスンしたりしていた。


だけど、作る曲に、それは顕著に表れていた。

孤独感、絶望感、破壊的で破滅的、閉塞感漂う物になった。

桂吾の言葉を借りるなら、原点回帰のハードロック、かっこよく作ったつもり、だそうだ。

金魚が酸素が薄い水槽の中で、水面でプクプクと呼吸しているように、桂吾は浅い呼吸を苦しげにしているようだった。


 夏になり、桂吾の作る曲に、俺も耐えられなくなっていた。

キツい……キツすぎる……

9月、桂吾との歌練のあと、作ってきた仮歌のUSBと楽譜を借りて、瞬のところへ行った。

瞬に聴いてもらうと、確かにこれは……と言葉を詰まらせた。

「歌詞もそうだけど、全体的にメロディーのキーもこんなに、マイナーキーを多用してて……キツいな……

よし、手を加えよう。桂吾には、俺が話す」

と、瞬は言った。

瞬ならそう言うのがわかっていた。

俺は、嫌な役回りを、瞬に押し付けたんだ。

瞬と2人で、曲を作り直した。

原曲とは、もうすっかり別物のようになってしまった物もある。

桂吾を呼び出し、瞬が話をした。

「あぁ、いいよ!やりやすいように変えちゃってくれよ」

桂吾は、いつもと変わらない調子で答えた。



 そして、その1週間後

俺たちの前から いなくなった……

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