第10話 『花屋の彼女』
大学2年の1月。
突然、瞬が、桂吾に好きな女が出来たらしいと言い出した。
ってゆうか、今更?
今ごろ気づいたのかよ?
もう1年以上前からだろ!
「へぇ~そうかぁ~?俺はなんも知らないけどな」
と、悠弥が言った。
悠弥、とぼけんの下手すぎだろ!!
俺は、全く興味ないって言った。
もう、話は終わりかなって思ったら、大輝がすごく食いついた。
「なんで、そう思うんだよ!根拠を言えよ!」
って。
で、瞬が理路整然と根拠を語り出した。
はぁ……
話は、桂吾がマジになってる女を特定する!ってことになっている。
そんなこと、本人に聞けば、普通に答えるんじゃないかな?って思った。
瞬が、続けて、桂吾が前に作ってきたやつで、やっぱこれはボツにしてくれって、下げたやつがあって、その歌詞が、“花が好きなおまえに心を奪われて”みたいなやつだった!って。
桂吾のバイト先の真ん前花屋じゃん!行ってみようぜ!って話になった。
全然、気がついてなかったにしては、ピンポイントで当てられてんじゃん!!
これを、桂吾に教えてやろうか、ちょっと迷ったけど、俺も花屋の彼女には興味があったから、桂吾には伝えず、みんなで見に行くことにした。
瞬が、桂吾のバイオリンのレッスンの時間を調整したから、桂吾がいないのはわかっていた。
理彩子も行くことになって、5人で行った。
悠弥も彼女に会うのは初めてらしく、大輝と2人で、超絶エロい女なんだろうなぁとか話している。
いつの間にか、悠弥そっち側かよ。
桂吾を本気にさせるんだから、かなりのテクニックを持ってんだろう。
ダイナマイトボディだろな!って。
いやいや、そうゆう系じゃないぜ!たぶん。
と思いながら、駅前を歩いた。
花屋に着いた。
この子か。
オーラを見た感じは、ほんわかした雰囲気。
優しくて穏やかな感じ。
外見は、普通の子。
ものすごく目を奪われるような容姿ではない。
ストレートのロングヘア。
身長は、160くらいかな。
小さくもないし、大きくもない。
ざっくりとした白いニットに、ロングスカート。
痩せ型だな。
胸も大きいようには見えない。
普通って感じ。
軽く、よんでみようかな。
手をかざしてみた。
ん??
よめなかった。
オーラをみた感じじゃ、ノーガード。
簡単によめそうだったのに。
瞬が、会社に飾る花が欲しいんですがとか聞いている。
彼女は、鉢植えがいいですか?花瓶で飾りますか?とか、瞬と話してる。
さっきまで彼女が手にしていた、小ぶりのじょうろに触れてみた。
ん????
なにもみえない。
キレイに消去されてるみたいに。
理彩子が、お姉さん名前なんてゆうの?とか聞いている。
「ゆきです」
と、笑顔で答えた。
この花屋に、他に若い女の子っているかと質問してる。
「私だけです」
聞き心地が良いと言うのか、す~っと耳に入ってくる優しい声だ。
大輝も悠弥も、なんかそれぞれに質問したりしてる。
店はすいていて、客は俺たちだけだったから、彼女も俺たちの茶番にしっかりと答えてくれている。
ケーキ屋にあるような、ショーケースに籐のかごや、木の箱、陶器に生けた状態のアレンジメントが飾られている。
「理彩子、どれがいい?」
「えっ?龍、買ってくれるの?」
「あぁ」
理彩子は、黒と白のモダンな器に生けられている、スタイリッシュな感じのアレンジを選んだ。
袋に入れてもらって、理彩子が受け取った。
レジで5000円を出した。
「2000円のお返しです」
と、差し出した彼女の手をガバっと握った。
えっ?って顔で、俺の顔を見上げてる。
彼女の手を握ったまま、
「ごめんなさい。目が悪くて、距離感つかめなくて」
と言った。
ま、それはウソ。
彼女は、にっこり微笑むと、右手で俺の手を上から包んで、どうぞと言った。
「ありがとう」
「龍!!」
理彩子にデカい声で呼ばれて、ハッとした。
「龍!ちょっと、なにその顔!浮気現場見られた!みたいな顔してるよ!」
「あ、いや、見られちゃったって思って」
「浮気なの?」
眉間にシワを寄せて、にらんでる。
「あはは。桂吾の女に、手出したりしないよ。
あっ、手は握っちゃったけど。あはは!」
「よもうとしてんの?」
ギクッとした。
「あぁ!そう。消えないうちに、よみたいから、ちょっとトイレ行ってくる」
そう言って、その場を離れた。
彼女の手を握りしめた手を広げて、額に当てた。
そして、右手で印を結んで、左手の上から額に当てた。
これは……
清流
清らかな優しい流れ
湧き出たばかりのような、濁りのない清流。
この透明感は、桂吾のオーラにも似ている。
けして、大きな流れではない。
けど、
この人も、本流なんだ!
汚れない流れ。
でも、あちこち傷ついている。
その傷口から入ってくる外敵に対して、免疫機能が過剰に働いて、攻撃している感じ。
何重にも壁がある。
これは……いろんな意味で厳しいな……
桂吾の流れと、彼女の流れとは、根本的に違う。異質のものだ。
これがまみえるのは、難しいだろう。
普通の人だったら、握った手から、もっと深くよめる。一気に何年か前の出来事くらいまでダイジェスト版でよめたりする。
でも、彼女をよんで、よめたのは、イメージ映像ってくらい。
彼女に触れながらよめば、もう少し深くよめるのだろうが、これが限界。
優しいけど、信念がある。他者を寄せ付けず、拒絶している。
桂吾だけだろう。彼女の心に触れられるのは。
いや、桂吾が触れているのも、彼女の心を覆っている、外壁までか。
桂吾……
これは、厳しいよ……
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