第5話 『理彩子 ①』

 理彩子のことを話したいと思う。


 その日、6時限目は体育だった。

グラウンドでサッカー。

今日は当番で、ボールを体育館横の倉庫に片付けていた。

その時、“たすけて!!”って、声が聞こえた。

実際の声を、耳で聞いたのか、頭で聞いたのか、考える間もなく、俺は声の方へ走り出していた。


「1年のくせに人の男に手~だしてんじゃね~よ!!」

「だから、だしてないって!」

「その、タメ口も生意気なんだよ!!」


校舎の角を曲がると、尻もちをついた格好で、座り込んでいる女と、それを見下ろす3人の女。


俺は、座り込んでる女の前に立って、3人と向き合った。


「何あんた?」

「俺の女が、あんたの男に色目つかうわけね~だろ!勘違いしてんなよ!」


えっ?

えっ?

えっ?

えっ???


面白いくらい、全員に はてなマークが出ていた。


「行くぞ!」

尻もち女を立たせて、手をつないで歩き、角を曲がって、手を離し立ち止まった。

尻もち女は、ポカーンとした顔をしている。

まじまじと見たら、ブラウスのボタンがぶっ飛んだのか、ブラが丸見えだった。

ってか、すげー巨乳!何カップだ?

俺は、羽織っていたジャージを脱いで、尻もち女にフワっと投げた。


「じゃ」


そう言って背を向けた。

歩きながら、我に返った。

なに?俺、何した?

自分のしたことに驚いて、すげー恥ずかしくなった。


早歩きで教室に戻り、カバンを持って部室に行った。

部室のドアを開けると、桂吾と悠弥が相変わらず、床で寝転んで絡み合っていた。


桂吾が下から俺を見上げて

「龍聖どうした?顔、赤いけど」

と言った。

「体育で走ったから」

と答えた。

「そっか!なんか、女と一発やってきたみたいな顔だけどな!」

と笑った。

ドキッとした。須藤桂吾!すげー!

別に、女と一発やってきたわけじゃない。

だけど、このドキドキ感を見透かされている。 俺がよまれるなんて。


「ふっ、あっはははは!」

声出して笑っちまった。

「えっ?なに、なに?一発やってきたの?」

と、悠弥が聞いてきて、また笑った。


 

 次の日。

俺のクラスに、尻もち女がきた。


「昨日は、助けてくれてありがとう!ジャージ洗濯してきたから」


オーラをみる限り、純粋な子。

でも、言動で誤解されることが多いだろうというタイプ。

「昨日、言ってくれたのって、私を助けてくれる為なのは、わかってるんだけど、……ずーずーしく言わせてもらうけど、ほんとに付き合ってもらえないかな?龍聖くん!」

俺を見上げて言った。

「俺の名前知ってんだ?」

「だって!ジャージに刺繍入ってるもん!桜井龍聖くん!」 

にこっと笑った。

単純だ。

こんな単純なことにも気づかないくらいに、俺はどうかしてる。

「君は、なんて名前?」

「竹田理彩子、5組だよ!」

「理彩子、じゃ、付き合おうか」


それが、理彩子と付き合い始めたきっかけ。

知り合った次の日から付き合うとか、ほんとに有り得ないんだけど……

俺は理彩子と付き合い始めた。

 


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