第4話 『初めての心地よさ』

 それから毎日部室に集まり、桂吾は瞬に教わりながら、練習していた。

そこそこ基本はできていたけど、瞬に教わると、ちゃんと出来るようになる。

飲み込みがすごく早い。


悠弥のベースは完璧。

すごくセンスがいい。


大輝のドラ厶も、すごくいい。

天性のリズム感。


リズム隊の2人がこれなら、歌いやすい。


桂吾は、ギターを教わっている時以外は、ずっと悠弥としゃべったり、ふざけたりしている。

パンやお菓子を食べてポロポロと落とし、大輝に掃除しろと怒られた。

ホウキで雑に掃いて終わりにすると、雑巾がけしろと瞬に怒られている。

よつん這いになって、雑巾がけしている桂吾のうしろから、悠弥が

「バックで、入れてくれみたいなかっこだな~」って、立ち膝でケツをつかんだ。


あはははは!!

2人で大笑いして、この方がいい?とか、これどうかな?って、床で体位をいろいろ変えて2人で絡みだした。

で、戻ってきた瞬に激高される。

このやりとり、何回目だろう。

一連の流れがコントのようで、ほんとにおかしくて、クスッと笑ってしまった。


楽しい!

こんなに、楽しいと思ったことは今までなかったかも。

俺は、極度の人見知り。

いや、ほんとは人見知りってゆうのとは違うんだろうけど。

みえてしまうから、人間不信になっている。

ニコニコしてるけど、すごくキツかったり、腹黒かったり。

俺は、無表情になってしまう。

友達もそう。

女もそう。

裏表がありすぎて、疲れる。

本音と立て前って言葉があるように、それが普通なのかもしれない。

良い悪いではなく、人間ってゆうのはそんなものだ。

父の仕事の関係で、2、3年の周期で引っ越しになる。

人間関係も2、3年でリセットされる。

だから、人と深くかかわらず、浅い友達付き合いをしてきた。

そんな俺が初めて感じた居心地の良さ。

ありがたい。

俺を引き寄せてくれた本流。

大きな流れに感謝した。



 自分の力とか、家のことを内緒にしろなんて口止めも、されていない。

友達に話して、理解してもらったらいいんじゃない?と母は言った。

母は、一般人。

父に選ばれた人。

なんの力も持ってないが、父のことを理解して、愛してくれた人。

きちんと、務めてを果たし、3人の子を生み、育てた立派な人。

俺を愛しているかなんて、確認するまでもなく、愛情の深さはすごい。

母だけが、悩みを相談できるただ1人の一般人だった。

母は、友達に話して理解してもらったらいいんじゃない?って言うけれど、それはそれで怖かった。

父と兄が持っている力。

『操る』『消す』

消されてしまうことを恐れた。

消されるって言っても、殺されるわけじゃない。

簡単に言えば、“記憶の改ざん”

身内には効かないから、俺の記憶を消すことは出来ないけれど、仲良くしてきた友達が、俺のことをすっかり忘れてしまう。

そんなのは、嫌だった。

それならば、そんなことは言わない方がいい。

そう思って生きてきた。

中学生の2年間、家族で長野で暮らした。

高校受験をし、合格が発表されたタイミングで、父と兄の異動が決まった。

今度は、島根県。

俺は、長野に残って、高校に通いたいと父に言った。

反対されるのを覚悟で言ったが、予想外に、そうかとあっさり承諾してくれた。

アパートを借りてくれて、一人暮らしできるように母が整えてくれて、初めて家族から離れることになった。

父は、離れていても確認は容易に出来るから、心配していない感じだった。


まだ、8歳の妹だけは、俺と離れるのを強く悲しんだ。

泣いてすがって、なかなか離れなかった。

「沙羅、元気でな。今度会う時には、大きくなってるかな。楽しみだな」

優しく抱きしめた。

この子は、あまり力を持っていない。

うっすら感じ取れるくらい。

その方が幸せだろう。

一般人の母さんの心の拠り所になってくれている。


一人暮らし、案外寂しさは感じなかった。

高校!楽しい!

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