第35話 『箱庭ダンジョン4』


本日35話、36話同時投稿しています。

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「……うーん、ちょっと待ってくれ。方針変更」


 俺は頭を抱えたくなるのを堪えて、ゴーレム達に指示を出した。素直に頷いて立ち止まったゴーレムを横目に見ながら、これからの方針を考え直す。

 どうやら先ほど出現したらしいモンスターは、このゴーレム達にとって相手にもならない敵だったらしい。それはいい。『箱庭』の安全度が上がるという意味では素晴らしいことだ。問題は、この調子でバカスカ一撃必殺されると、ゴーレムの戦闘の様子から相手の脅威度を測り、その結果によっては俺も一度戦闘してみるという目的が達せられないことだ。


「……とりあえず、次に出てきたモンスターは生け捕りにしてもらっていいか?」


 戦闘風景が見られないなら、モンスターを直接観察すればいい。見ても分からなければ、生け捕りにしたモンスターを連れて帰って、外に出して消滅するかの確認に移行すればいい。

 ぶっちゃけゴーレム達にしてみればただの雑魚だったようなので、俺もこのまま戦闘してみてもいいかなという気になってしまってはいるのだが、思い出すのは昼間大学で見たモンスターだ。

 あのマーモットを名乗る不届きものは、サイズこそ秋田犬の成犬程度の大きさであったが、その口からはみ出す牙と鎌のような爪は、犬とは比べ物にならない大きさと鋭さを有していた。何よりもあの顔。人への憎悪と殺意に歪んだ醜悪な顔とそれが放つ殺意は、あの場に居た全ての人間を恐怖に震え上がらせた。モフモフした生き物全般に弱い自覚のある俺だが、あのモフモフは愛せそうにない。

 あの時は人命がかかっていて必死だったので、なんとか立ち向かおうという気になれたが、あれに突然襲い掛かられたら戦う覚悟もできず死んでいた自信しかない。

 俺はダンジョンに入ると決めた時、あれを想定して戦う覚悟を決めてきたのだが、先ほどの光景を思い出すと、ゴーレムが倒したモンスターはイビルマーモットよりも大分小さかったように感じた。モンスター本体は全く見ることができなかったのだが、倒した後立ち昇った黒い霞も昼間見たよりも明らかに少なかったしな。

 歩みを再開しながら、先ほどのモンスターについて護衛ゴーレムにあれこれ質問してみる。


「入り口付近に居るのってさっきのモンスターだけ?」

そうそう。

「もっと奥に進めば他のモンスターも居る?」

いるいる。

「奥のモンスターの方が強い?」

もちー。

「さっきのモンスターって、魔法とか、飛び道具系……矢とか針とか、あと毒液とか飛ばしてきたりする?」

ないない。

「直接的な物理攻撃以外の攻撃手段はない?」

みたことないかなー。

「同時に複数体で襲い掛かってきたりは?」

そんなのしないよー。


 ……一部適当なアテレコをつけながらお送りしたが、聞けば聞くほど大したことないモンスターに思えるんだよなぁ。まあいいや、怪我しないように気を付けるって約束もしてるし、初めての戦闘だ。慎重に行くに越したことはないだろう。

 暫く歩くと、先頭を歩いていたゴーレムが再び立ち止まる。同時に少し離れた所に小さな魔力も感じた。次の相手を見つけたようだ。

 捕獲の指示を出せば、先ほどと同じように躊躇いなくずんずんと進んでいく。気付いたんだが、こいつら敵を見つけても、気付かれないように慎重にとか、反撃を受けないよう警戒して、という配慮を一切しない。俺が先ほど出遅れたのもそのせいだ。そんなことをしなくてもいい程度の相手だというのもあるんだろうが、どうも生来のもののような気もする。体が金属だからあんまり弱い攻撃だとダメージ入らないのか?でもダメージ受けても気にせず攻撃を続けて、自分が壊れるまで止まらなそうなイメージもある。うーん、そんな「ガンガンいこうぜ」モードじゃなく、もっとこう「バッチリがんばれ」くらいの作戦で行って欲しいんだが……。ゴーレム達の性能確認も含め、何か考えた方がいいかな。

 そんなことを考えているうちに、先導していたゴーレムがモンスターと接敵したようだ。今度は最初から近くで見守っていたが、俺がモンスターを視認できたのは、素早くしゃがみ込んだゴーレムが起き上がり、片手を掲げてこちらに向き直った時だった。


「…………ダンゴムシ?」


 ゴーレムが鷲掴んでいたのは、鉄色のメタリックなダンゴムシにしか見えない生き物だった。全長は15cmほどか、こちらに腹を向けて触覚と足をもぞもぞと蠢かせている。遠距離攻撃は持っていないということだったので、近づいてちょちょっとメイスの先っぽで突いてみたが、丸まりたげにゴソゴソするだけでぜんっぜん反撃しようって気配も出さない。え?マジでダンゴムシ?

 マジで?これモンスター?マジマジ。なんて会話をゴーレムとしていると(相手は無言だが)、もぞもぞしたり思いっきりエビ反りしてみたりしていたダンゴムシが、急にがっくりと力を失い――そのまま黒い霞となって霧散した。


「え?」


 思わずダンゴムシを鷲掴みにしていたゴーレムを見ると、こちらもアワアワと狼狽えている。意図してとどめを刺したわけではないようだが、なんで消滅したんだ……?


「まさか、逃げようと暴れたことで自傷ダメージが入った、とか?」


 ダンゴムシにエビ反りは無茶やったんや……ってことか?なんでそんな無茶をしたんだダンゴムシ。お前そんな見た目しといて、敵に捕まって捕虜となる辱めを受けるくらいなら、いっそ……!みたいなタイプだったのか。 え、これどうやって生け捕りにすればいいわけ?捕まえるとスタイリッシュ自殺されるんですけど。


「……とりあえず、次捕まえたらロープで縛りあげてくれるか?」


 差し出したロープを、今度は無言で受け取ってくれた。


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