第34話 『箱庭ダンジョン3』



 『箱庭』の地下に直接転移するとムネエソゴーレムとぶつかるかもしれないので、一階にあった地下への階段手前に転移した。

 そのまま地下に下りると、ダンジョンと資材庫を往復するゴーレムを3体ほど選び、声をかけて足を止めさせる。


「仕事邪魔して悪いんだけど、これからダンジョン潜るのに着いてきてもらえる?ええっと、護衛って、できるか?」


 3体が頷くのをしっかり正面から見て、先ほどまでより明確にこの顔に慣れてきているのに違和感を感じ、指輪で精神を上げた効果かなと、浮遊するタブレットに表示されているステータスをチラ見する。……なんか混乱耐性と恐怖耐性なんてスキルが生えてきてるんですけど???やっぱ特殊効果あんじゃん!絶対この目でしょ!

 顔面で無差別状態異常攻撃を仕掛けてくるゴーレムに慄きつつ、3体に指示を出していく。

 とりあえず、2体には護衛についてもらって、もう1体に最初に遭遇したモンスターを試しに討伐してもらおう。その様子を観察して俺でも倒せそうだったら、次に出てきたモンスターは俺が相手をしてみる。最後に、モンスターを1体生け捕りにしてもらって、ダンジョンの外まで連れてきて消滅するかを確認する手筈だ。

 ゴーレムの戦う様子と、俺が戦ってみた感じを比べてみれば、このゴーレム達がどの程度の戦力になるのかも多少分かるだろう。

 戦闘と生け捕りを担当してもらう予定のゴーレムにロープを渡そうとすると、胸の前で手を振って断られる。


「持てない?……いや、必要ない?無くても捕まえられる?」


 腕を振り回し体を捻り、ちょっと愉快なジェスチャーで伝えようとすることをなんとか読み取って質問を重ねれば、大きく頷かれた。意外と感情表現豊かだな、このゴーレム。この顔に慣れることができれば面白いかもしれない。

 つるりとしたゴーレムの体にはロープを引っかけておくような箇所もないし、素手で捕まえられるというのなら邪魔でしかないのだろう。まあ、金属製の体は爪や牙にも強そうだし、本人?本体?のやりやすい方法でやってもらおう。

 部屋に積んである武器の中に盾の類は無かったので、マーケットボードで適当に買った盾を護衛役のゴーレムに差し出してみるが、こちらも断られた。このゴーレム達の様子を見る限り、このダンジョン、入り口付近ならそう極端な強さの敵は居なさそうだな。まあ、ゴーレムにとっては雑魚でも俺にとっては強敵という可能性も有り得るし、油断せず行こう。


 見張りを頼んだゴーレム1号がしっかり役目を果たしてくれているのを確認し、引き続き入り口の警戒を頼んでダンジョンに足を踏み入れる。

 坑道のような入り口通路を抜けると、天井の高い少し開けた場所に出た。一瞬広場のような場所かと思ったが、どうやら幅の広いだけの通路のようだ。明るい部屋の中からダンジョンを覗き込んだ時は酷く暗い印象を受けたが、中に入ってみると内部は薄っすらと明るく、目が暗さに慣れてくれば離れた壁の凹凸まで確認できた。これならペンライトは点けない方がいいかもしれない。明かりなんか点けてると目立って敵に狙われやすくなるかもしれないし、ペンライトの用途はいざという時の目潰し用にしとこう。ライト持たないなら片手が空くし、鍵を持っていつでも使えるようにしておくか。

 魔力を探ってモンスターがいないか確認してみるが、ダンジョン内は全体的に魔力が濃いようで、どうも探りにくい。傍らに居るゴーレム達の魔力はぼんやりとだが感知できるので、全く探れないわけではないようだが……。魔力感知のスキルレベルが上がれば、もっとはっきりと分かるようになるかもしれない。今後に期待しよう。

 少し恐怖と緊張を感じている身としては、迷いなく先導してくれる戦闘・捕獲担当ゴーレムの背中は頼もしく感じるが、それにしてもずんずん進みすぎじゃね?道分かってる?というかちゃんと入り口に帰れる?こそっと隣に居る護衛担当のゴーレムに尋ねれば頷かれた。

 よかった。知力が上がって記憶力も上がったので来た道は全部覚えているが、何しろ似たような景色が続いているので、戦闘なんか挟むと方向感覚が狂ってどっちから来たのか分からなくなりそうだ。自動マッピングスキルとか欲しいな。当たり前だがスマホの地図機能もコンパス機能も使えなくなってるし……んんん?コンパス?

 コンパスという単語からとあるアイテムを思い出し、片手に持っていた鍵をポケットに突っ込み、タブレットを引き寄せる。


「お、あった。『黄昏の星針盤』」


 マーケットボードで購入したのは、今朝見かけたばかりのアイテムであった。魔力を流すことで黄昏の星とか言う、恐らくこの世界の北極星に相当する星の方角を指し示すだけの、ぶっちゃけただのコンパスなのだが、今俺に必要なのはこれな気がする。黄昏の星とやらが存在しない地球や『箱庭』内で、きちんと動作するかだけが気がかりであったが、不要な心配だったようだ。


「おお……」


 針のないアンティーク調の羅針盤か懐中時計のような星針盤に魔力を流すと、文字盤から湧き出るように浮かび上がった金色の粒子が針を形成し、右斜め上方向を指し示した。本体を手のひらの上でクルクル回してみても、示す方向は変わらない。どうやら問題なく使用できているようだ。

 護衛ゴーレムが首を傾げながら興味深げに覗き込んでくるので、コンパスの必要性や使い方を説明したが、傾げる首の角度が深くなっただけだった。どうやらイマイチ理解できていないようだ。このゴーレム、どの程度の知能があるのか気になるな。

 そんなことをしていると、不意に、前方に僅かな魔力の違和感を感じた。それと同時に先頭を歩いていたゴーレムが立ち止まり、チラッとこちらを振り向く。……モンスターか。

 星針盤を鍵と入れ替えながら頷くと、こちらの緊張をよそに、ゴーレム達は特に武器を構えるでもなく何事もなかったかのように普通に歩きだした。


「えぇ……」


 その切り替えの早さに着いて行けず、一瞬だけ呆けたが直ぐに気を取り直して後を追う。……そう、出遅れたのは一瞬だけ、一瞬だけだったのだ。

 ドカッという音が聞こえ、一瞬だけ立ち昇ってかき消える黒い靄……。


 待って???何も見えなかったんですけど???



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初戦闘まで行こうと思ったんですが、めちゃくちゃ長くなってしまったので2話に分けます。次話は8割方書けているので、明日投稿予定です。


いつもたくさんの応援や評価ありがとうございます。

コメントも沢山いただき、有難く拝読させていただいておりますが、生来のコミュ障により返信にすっごく悩んで時間がかかってしまい、ここで時間を取られるより話の続きを書く方が読者の方々のお気持ちにも沿うのではないかと考え、個別のコメント返信を控えることにしました。

感想や誤字報告、疑問や改善点はきちんと読ませていただき、作品に反映させていただきます。

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