第17話 『魔力操作』



 落ち着け、まだ諦めるような状況じゃないはずだ。

 ステータスにМPの項目があるということは、俺にも魔力というのが存在すると考えてもいいはず。

 自分の中にある魔力を認識できれば、あとはそれをちょろっと出してちょろっと流すだけの簡単な作業だ。

 のそのそと布団から抜け出してベッドの上に胡坐を組む。背筋を伸ばして座禅もどきだ。膝の上に足乗っけるんだったか……お、意外とできるな。

 姿勢を正してなんかそれっぽく、下腹部あたりに意識を集中させて。

 ………………。


「いや、無理でしょこれ」


 諦めるのが早いとか言わない!全っ然わっかんねーわ!どんだけ集中してもか感じ取れるのは尿意くらいだわ。トイレ行っとこ。

 そもそもステータス出現してからも、アクセサリー装備してМP上がったりしても、何も変わった感じしねーんだよな。いや、身体能力が上がったのは実感してるし、運も頭も良くなってるのは理解してるけど、なんつーか、新たな力に目覚めた的な?そういうのが?全然ないわけなんだけど?これホントに魔力ある???


「うーん……、魔力、検索」


 困ったときのマケボ様である。

 何かヒントになるような物はないものか。いや待て、本とかあっても異世界の文字だよな?あのアラビア語もどきの。先輩に丸投げしとけば翻訳してくれねーかな~……。

 そんな人任せなことを考えていたが、検索結果に書籍類は出てこなかった。

 一覧の中で一番数が多く目立つのは『魔石』だ。魔力の籠った石、ね……。うーん、定番。

 その他にはアクセサリーが幾つかと、珍しいことに魔道具が一つだけ混ざっていた。

 まずはその『黄昏の星針盤』とかいう魔道具を確認してみる。魔力を流すことで黄昏の星を指し示す、ね……。うーん、コンパス。次!

 幾つかあるアクセサリーの中でも一番それっぽいのは、『魔力操作の耳装具』だ。これ、そのものズバリじゃない?かなり期待して開いた商品説明の内容は、『スキル:魔力操作』を補助し魔力の運用効率を上げる……。その魔力操作がねーんだよなぁ~~~~~~~~~~~!

 心の中で叫んだ勢いのまま仰け反って、ベッドにボフンと倒れ込む。そのままゴロンと横になって、寝転びながらタブレットをスクロールした。


「他も碌なのねーな……。うーん、耳装具買ってみるか?」


 コンパスはいらんな。やっぱ耳装具で。

 耳装具さん、あなたちょっとお高くない?70万もすんの?コンパスさんなんて5千円ぽっきりでしてよ。

 現れた耳装具は銀色の透かし彫りのイヤーカフで、何かの模様かと思えば、よく見るとあのアラビア語もどきの異世界文字が彫ってあった。にしても、これ銀じゃねーな、プラチナ?……いや、もしかしてファンタジー御用達のミスリルとか?それで70万もすんの?

 早速イヤーカフを着けて自分の中を探ってみるが、やはりイマイチよく分からない。うーん、何か魔力のサンプルが欲しいな……。サンプル……、魔石買ってみるか。

 山ほど並んでいる魔石の値段はピンキリなので、とりあえず一番安い物を買ってみたのだが……。


「なんだこれ、石……?」


 現れたのは魔石と聞いてイメージする物からは程遠い、そこらの道端にでも落ちていそうな、灰色の小石だった。

 よーく見ると、ほんのり赤っぽい色がついて見えるような、見えないような……。

 ……やっぱケチるのは良くないな。高いやつ買おう。ちなみにこの小石は30円だった。

 一番高価な魔石は2500万円とアホみたいな値段だったので流石に止めておいて、とりあえず10万ほどの魔石を購入してみる。今度出てきたのは、The.魔石といった風情の、揺らめくような赤に染まった透明度の高い丸い石であった。


「お、おぉ……!なんか分かる……!?」


 見た目はともかくサイズや重さは然して違わない二つの石なのだが、両手にそれぞれ持ってみると明らかに質量が違う。いや、重さは同じなんだから物質的な質量は違わないはずなんだが、なんと言えばいいか、重さとは別の圧を感じるのだ。

 その感覚を忘れないうちに、今度は自分の体に意識を向けてみると――掴んだ。

 俺は魔力と聞いて、なんとなく血管に血が流れるように体中を巡っているか、もしくは丹田か心臓辺りに纏まって溜まっているようなイメージで体の中を探していたのだが、実際は全然違った。

 皮膚の内側に、空気がパンパンに詰まった風船のように魔力が詰まっている。濃い所も薄い所も無い、頭の天辺からつま先まで、全身にムラなく魔力が満ちているのだ。

 なるほど、これはさっきまでの探し方じゃ見つからないはずだ。

 俺は両手に持っていた魔石を枕元に置いて、放り出していたマスターキーを手に持つ。

 後はこれに魔力を流して……。流して……、


「いや、無理でしょこれ」


 鍵の方に魔力を押し出そうとするのだが、なんというか、バランスボールを捏ねてる感じ?捏ねても捏ねても空気が出ていく穴が無いのだ。

 あと力いっぱい押しつぶしても、圧を加えるのを止めると一瞬で元に戻る驚きの形状記憶能力。

 かと言って、無理に穴を空けようとすると、風船に針を刺したように破裂しそうな恐ろしさもある。あと破裂=死だぞって本能がガンガン警鐘を鳴らしてくる。

 なんだこれ、魔力怖すぎ。カイム君達なんでもない風に魔力流してたけど、凄すぎない?異世界人ってデフォルトで魔力操作スキル持ってんの?

 これは無理だ。怖すぎて俺にはこれ以上のことできない……。


「うぐぐぐぐ、先輩に!相談しよ!!!」






「ってわけなんすよ」

「ファンタジーでは血に魔力が含まれているのは定番だろう。ちょっと指でも切ってみればいいんじゃないか?」

「それ」


 秒で解決した。



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