第8話 『金策』


今回8話と9話を同時更新しています。

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 現在の俺は他人の目がないのをいいことに、アクセサリーフル装備のかなり間抜けな恰好をしてスマホを弄っていた。チャイムが鳴っても出られないやつ。

 一応多少見れるように、前髪を頭頂部で纏めてバレッタで留めたデコ出しヘアにしている。これはこれで間抜けだが、パーマのような癖のある茶髪なので、ずっと見ているとオシャレなような気がしてくる。正面から見るとバレッタが見えないのもいい。しゃがむと丸見えだが。

 ピアスについては誤魔化しようがないのでもう諦めた。自分で見ると違和感全開だが、もしかしたらこういうファッションの人もいるかもしれない。

 まぁ、一番の違和感はTシャツにハーパンというラフな部屋着で、アクセサリーをごちゃごちゃ付けていることなんだが。


「よし、これで登録完了。後は購入ページで数字を選べばいいのか」


 車上荒らしに遭って購入したアクセサリーが盗まれる等といったハプニングも特になく、バイトを終えて無事に部屋に戻った俺は、人目を気にせず金策できる方法として宝くじの公式サイトにたどり着いていた。

 運を活用した金策として宝くじやギャンブルは考えていたが、購入から当選金の支払いまで全てネットで出来るとは思っていなかったのだ。

 部屋にいながらネットで全部済ませられるというのは、不審者丸出しの恰好を人に見られないという点以外にも、もし当選した場合のことを考えても大変都合がいい。

 宝くじとか高額当選すると必ずどっかから話が漏れて、見知らぬ親戚が大量に湧いたり、変な壺買わされたりするとかよく聞くし。そういうのって大抵、宝くじ売り場か銀行から漏れるものだ。


「でも、あんまし高額当選すると結局どっかしらから漏れそうだよな……」


 無論、購入したとて必ず当たるとも限らないのだが、何しろ運を平均値から50倍以上盛ってるのだ。当たらなかった時のことより、当たった時のリスクを考えて行動した方が賢明だろう。

 元より大金を当てたいというより、出費が嵩んだ今月の生活費の補填に充てたいという目的の金策だ。億単位の当選を狙うリスキーな戦法を取るより、もっと堅実な所を狙った方が目的にも沿う。

 運を使って更なる大金を得たいなら、宝くじよりもそれを元手に運用する方が、変なのに絡まれるリスクも減るだろう。


「このナンバーズってのが丁度良さそうかな」


 当選金が最大でも100万ほど。毎回一等に相当するストレートの当選者が数十人出るので、もし当選してもそれほど目立たないだろう。

 何となく頭に浮かんだ数字列があったのでそれと、あとは適当な数字を選んで3口ストレートで購入してみた。

 平日は毎日抽選しているらしいので、明日の抽選を楽しみにしておこう。

 金策がひと段落したところで、そろそろ夕食の準備に取り掛からねばならない時間帯である。

 冷蔵庫を開ければ、チルドにびっちり詰め込まれた肉、肉、肉。


「うーん、この……」


 まぁ、分かり切ってたことではあるが、ドラゴン肉しかない。

 今日はちゃんとご飯を炊いてあるので、この肉で何か丼ものでも考えよう。


「しかし、あんまりこの肉食べ過ぎるのも問題だよな」


 昨日の惨状を考えると、全部食べ切る頃には破壊神になってそうだ。しかも冷凍庫にはまだこの倍の量が眠っているというおまけつき。

 上がった筋力に慣れながらちょっとずつ食べていきたいところだが、賞味期限も心配である。脂の多い肉は美味しいが劣化も早い。冷凍庫に放り込もうにも、こっちも肉でギチギチでこれ以上入れるのは無理がある。

 いや、他の冷凍食品を先に処理してスペースを開ければ多少余裕ができるか。冷凍餃子を今日の夕飯のおかずにすべく取り出して、空いたスペースにドラゴン肉を詰めていけば、チルドの中身が半分程に減った。あと2kg。


「塩漬けにしたら多少は持つか……?」


 残ったドラゴン肉の半分に塩コショウをたっぷりまぶして、キッチンペーパーをぴったり巻き付けたらジップロックにイン。スパイスのない簡易パンチェッタもどきの完成である。ホントは豚肉で作る料理だけど。牛肉の塩漬けってコンビーフくらいしか思いつかないんだよな。

 ドラゴン肉は和牛のような脂の甘味と、ラム肉のような癖になる野性味のある味がする。こういった保存法は豚肉のような変な癖のない肉の方が向いているのだが、背に腹は代えられない。

 これでキッチンペーパーを毎日交換していれば、一週間くらいは持つはずだ。

 残りは明日赤ワインでも買ってきて煮込んでしまおう。角煮風にするのも良いかもしれない。濃い目の味付けで煮込めば大分持つだろう。

 作業を終えたところで今日の夕飯に取り掛かる。

 野菜も欲しかったのでマーケットボードで適当に購入したら、ピーマンみたいな野菜が出てきた。野菜室の奥からパウチ入りの筍の水煮を発掘したので、これでチンジャオロース丼にしよう。

 材料を全部細切りにしてごま油で炒める。中華だしにオイスターソース、砂糖、醤油と、調味料を目分量で投入していると、ドラゴン肉のあの食欲をそそる香りが立ち昇ってきた。

 丼に盛った炊き立てのご飯の上によそえばチンジャオロース丼の完成だ。

 フライパンを綺麗にしたらササっと冷凍餃子も焼き上げる。

 ピーマンもどきはやっぱりもどきでしかなかったので何か違うが、肉が最強なので問題なく美味しかった。

 何入れても肉の旨味に全部消されるなこれ。


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