第7話 『豪運の実』
豪運の実。
豪運シリーズで価格順に並べたトップにあるそのアイテムは、当然ながら豪運の指輪の1000万円より高い、なんと5000万以上するアイテムだ。
指輪以外の豪運のアクセサリーが+100でも指輪と同程度の価格で売られているのを見るに、かなり高価な代物だ。
気になって商品詳細を見てみた俺は、そこに書かれている内容に首を傾げた。
「食べた者の運の基礎能力値を永続的に+1する……?」
書いてあるのはこれだけだ。
あまりの不可解さに眉間に皺が寄るのが分かる。
永続的にステータスを上げる効果が貴重なのは分かる。指輪のプラス効果はカッコつきで表されている通りに、仮の数値ということなのだろう。指輪を外せば効果は消えるのだから、それは分かっていたことだ。
俺が不可解に思っているのは、1kg食べただけで基礎能力値が+5されたドラゴンステーキのことだった。一つの能力値ではない、7項目ある能力全てが+5され、合計で35も上がっているのだ。
アナウンスの内容やステータスの表記方法を見るに、これは一時的なものではなく永続的な効果だろう。豪運の実と同様の効果だ。
「そんな肉が3億?安すぎない?まだ殆ど残ってんだぞ……」
高すぎる買い物だと思っていたが、実際の所とんでもなくお得な商品だったようだ。思い返して見ると、ドラゴン肉の商品詳細にはグラム数の説明があったくらいで、基礎能力値を上げる効果については何も記載がなかった気がするので、そのせいかもしれない。
他のステータスの実も検索してみたが、豪運の実が2つ出品されている以外は、2憶で売られている技巧の実が1つ出品されているのみ。それも見ている最中に商品欄から消えてしまった。どうやら誰かが購入したようだ。ステータスの実はかなりの人気商品らしい。
豪運はここでも不人気らしいなと安心していたら、いつの間にか2つあった実のうちの1つが消えていて焦る。少し悩んだが、物は試しだ。俺も1つだけ買ってみることにした。
なんとなくリンゴっぽい感じで想像していたが、出現した豪運の実はアーモンドのような木の実だった。ただし色は白い。
「白って……なんとなく食欲わかないよな。いや、木の実って皮剥くとこんな感じ?」
念のためハンカチの上でお茶をかけて、ゴシゴシ擦ってから口に放り込む。食感はアーモンドというよりカシューナッツに近く、何だか食べたことのない種類の味がしたが不味くはない。
ドラゴン肉を食べてから、マーケットボードの食品を食べることへのハードルがかなり下がった気がする。何も考えずにそのまま食べてしまったが、生っぽい青臭さはなく、代わりにローストしたような香ばしさがあったので多分大丈夫だろう。
≪豪運の実の効果により運の基礎能力値が+1されました≫
「うわっ」
口の中に残った欠片を洗い流すためお茶を飲んでいたところでアナウンスが来たせいで、お茶を吹き出しそうになった。
指輪で一時的にステータスが上がった時は何もなかったのに、こっちはアナウンスが付くらしい。
ステータスボードを確認してみると、運の値が19から20に上がっていた。
フィクションではこういう時体が熱くなったりする描写があるが、身体的には特に何か変わったという感じはしない。+5上がった時も何も感じなかったため、そういうものなのだろう。
それより、かなり横道に逸れてしまったせいで、お昼休みがあと僅かになっている。早く目的の物を探そう。
俺はパンを齧りながらタブレットを操作して、ステータスボードからマーケットボードに表示を切り替える。
豪運シリーズを種類別にソートして表示させると、指輪以外のアクセサリーをピックアップしていった。
どうやらアクセサリーは、指輪、腕輪、首飾り、髪飾り、耳飾りの5種類しかないようだ。アクセサリー以外のアイテムも探してみたが、先ほどの豪運の実以外には見当たらなかった。
まずは指輪と効果が重複するか確かめる必要がある。
今度は安い順にソートすると、一番上に来た豪運の髪飾り+5を2000円程で購入してみた。
「見た目はヘアピンだな」
小さな白い石が付いている以外、普通の銀色のヘアピンに見える。
前髪を分けるように適当に付けてみると、ステータスが(+105)になった。
付ける場所の違うアクセサリーは、効果がきちんと重複するようだ。
今度は高い順にソートして、豪運の髪飾り+100を購入する。
「あー、これは……」
今度は見た目がかなり派手なバレッタになっていた。
豪奢な造りの台座に大粒のオパールもどきが乗っているそれは、どう見ても女性向け。男が付けるにはかなり難のある装飾だ。
「まぁ、今は誰も見てないし」
髪の適当なところに付けてステータスを確認すれば、きちんと(+200)になっている。
同じ+100どうしでも効果が重複することも確認すると、俺は全種類の+100の豪運アクセサリーを購入した。
指輪、髪飾りは先ほど確認した通り。腕輪は太いバングル状で、指輪と同じ唐草模様の装飾は地味目で、男が付けても問題なさそうだ。首飾りもペンダントトップの過多な装飾が逆に繊細さを損なわせ、ゴツめの仕上がりになっているので、これなら俺が付けても変ではないだろう。
最後に耳飾りだが、これが問題だった。
綺麗な球体に磨かれた白い石に棒が刺さっているだけの装飾のないスタッドピアスは、遠目に見ると大粒の真珠に見える。どう考えても男が付けて似合うような品ではない。
「うーん、人前で付けても問題なさそうなのが5個中3個か……」
3つ付ければ運に300の補正がかかるが、どうせなら500全部乗せたいところだ。
まぁ、そろそろ休憩時間がギリギリだ。方策は後で考えることにして、俺は購入したアクセサリーを眼鏡ケースと共にグローブボックスに放り込んで、午後のバイトに向かうことにした。
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