第6話 『豪運の指輪』


 店で適当に見繕った菓子パンとお茶を持って乗り込んだ愛車の後部座席で、俺はマーケットボードを眺めていた。昨日と同じくブランケットで目隠しも万全だ。

 金策のヒントとなるアイテムは、昨日この場所この時間に既に見かけていたのだ。


「お、あった。万力の指輪……これは+20もあるのか」


 昨日見かけた同名の指輪は+5しかなかったはずだ。あまりよく見ていなかったが、確か+5の指輪が1万円程度だったのに対し、この+20の指輪は70万円を超えている。どうやら性能によって価格が大幅に上がるらしい。

 商品詳細を見てみると、やはりこの指輪には筋力のステータスに補正をかける効果があるらしい。

 今回探しているのは、これの運バージョンだ。


「サーチ、運、指輪」


 瞬間、商品欄がぐるりと切り替わる。

 タブレットの上下一杯に、豪運の指輪の名前が並んだ。


「同じ+20でも万力の指輪より豪運の指輪の方がかなり安いな」


 こちらは同じ+20でも30万程度で買える。

 武器や防具は+値がなく品質で金額が変わっていたのだが、指輪には品質表示はない。同商品同性能の物は全て均一価格で売られているようだ。

 砂糖を売った時もそうだったが、マーケットボードが自動で価格を決めるので、売り手が勝手に値段を変えることはできない。

 商品を眺めていると、全ての商品がじりじりと値下がりしていく。値下がりの速度は性能ごとにバラバラで、価格の高い物ほど速度が速いのを見るに、どうやらパーセンテージで値段が下がっているようだ。

 出品した商品が売れ残ったまま並んでいるとだんだんと値下がりしていき、同一商品が1つでも売られると少しだけ値段が上がる。マーケットボードはどうやら時価相場制らしい。

 価格の高い順にソートすると、トップには1000万程で出品されている豪運の指輪+100が3つ並んだ。検索で切り替えて他のステータスの指輪も見てみるが、マーケットボードに出品されている指輪では+100が最大補正値のようだ。

 他の指輪と見比べてみると、豪運の指輪はやはり安い。他の+100の指輪と倍以上価格が違った。一番高価な英知の指輪など、一億近い値段で売られている。

 とりあえず今は他のステータスは必要ないので、豪運の指輪+100を1つ購入してみた。大分高価だが、どうせ使えない金だ。現実への投資と思えば高い買い物でもない。


「巨人の指輪かよ」


 買ったはいいものの、指輪はやたらとデカかった。こんなにブカブカで効果はあるのかと、恐る恐る中指に嵌めてみると、指輪は指に張り付くようにシュルリと縮んで丁度いいサイズに収まった。こんなアンティークな見た目をして、自動サイズ調整機能付きらしい。

 指輪の嵌った手を持ち上げてしげしげと見つめる。ホワイトオパールのような虹色の輝きを持つ白い石が嵌った土台はシルバーで、唐草模様の彫られたリング部分はかなり太い。パンクファッションに似合いそうなゴツめのシルバーリングだ。心配していたが、これならメンズでも十分通せそう。

 しばし宝石の輝きに見とれていたが、当初の目的を思い出して慌ててタブレットを確認すると、ステータスボードはこのように変化していた。




篠崎佑真

種族:人間:レベル1


HP:352/352(+100)

MP:351/351(+100)


筋力:16

体力:15 

知力:17

精神:14

敏捷:16

器用:15

運 :119(+100)


スキル

‐‐‐‐




 予想通りの結果と予想外の結果が同時に来た。運のステータスが増えるのは分かるが、HPとMPが運同様に増えているのは想定外だ。

 そういえば昨日基礎能力値が増えた時も、HPとMPも一緒に増えていた気がするので、基礎能力値が増えるとこちらも連動して増えるのかもしれない。

 気を取り直して実験継続だ。同じ指輪をもう一つ購入し、隣の人差し指に嵌めてみるが、今度はステータスに変動はなかった。


「同じ種類の指輪は効果が重複しないのか?」


 試しに左右の手に一つづつ付けてみたり、+5の指輪を買って試してみたが、どれも効果はなかった。

 ちょっと思いついて他のステータスの+5の指輪を全種類購入し、全て嵌めてみる。結果、全ての指輪の効果がステータスに反映された。どうやらステータスの種別が違えばいくつ付けても問題ないらしい。


「流石に全部付けると見た目が……。邪魔さは全然感じないんだけどな」


 +5の指輪は結婚指輪のようなシンプルなシルバーリングで、砂粒ほどの石がリングに埋め込まれるように付いている。石の色はステータスごとに違うようで、運の白を除けば、藍のない六色の虹色だ。

 万力は筋力の赤、不動は体力の橙、英知は知力の紫、忍耐は精神の青、疾風は敏捷の緑、技巧は器用の黄色、そして豪運は運の白となっている。

 とりあえず試しに買ってみたが今は運以外のステータスは必要ないため、指輪を全部外すと、余った+100の豪運の指輪と共にグローブボックスに入っていた空の眼鏡ケースに放り込んでおいた。これの元々の住人であるサングラスは、現在の住処をドリンクホルダーに変えているため空き家になっているのだ。運転中西日になったときにすぐ付けられるから、こっちの方が便利なんだよ。


「結局指輪の補正値は100だけか。うーん、ちょっと心もとないよな」


 筋力は5増えただけで目に見える効果があったが、今回の対象は運だ。

 19が119になったとて、所詮は6倍ちょっと。6倍と言われると相当増えたように感じるが、例えば宝くじを1枚購入するのと6枚購入するのとで1等が当たる確率はどれ程違うかというと、答えはどっちもほぼゼロ。それを踏まえると豪運の指輪がマーケットで安値で安定しているのも頷ける話である。

 たった5増えただけで、生まれて初めて自販機で当たりが出たことを考えると、単純に6倍と考えるのは違う気がするが、できればもう少し保険が欲しいところだ。


「そういや指輪しか見てなかったけど、他のアクセサリーもあんじゃね?」


 いや、アクセサリーとは限らないのか。

 マーケットボードには様々な品が並んでいる。食品や日用品から、ファンタジーな武器防具にアクセサリー、そして薬品と思しきものまで。武器や防具に運のステータスに補正がかかる物があるかもしれないし、もしかしたら一時的に運気を上げる薬なんかもあるかもしれない。

 検索の仕方に悩んで、とりあえず「運のステータスを上げる効果があるもの」というフワっとした言葉で検索したが、大丈夫だったらしい。

 ずらりと並んだ商品には、指輪の他の豪運シリーズが並んでいたが、ザっと見た範囲では首飾りや腕輪等全てアクセサリー類だ。他の装備や薬品はあまり無さそうに見える。

 とりあえずいつも通りに価格の高い順にソートした所で、俺は一番上に出てきたアイテムに困惑の声を漏らした。


「豪運の実……?」


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