第7話 続 虐殺する主人公(笑)~その1~

 あたしは自分の体の女が嫌いだった。

 理由なんかない。

 いや、あるのか。

 あたしは男共に女の部分を見られるのが嫌なんだ。


 子供の頃は性別がないだろ。

 いや、もちろんあったよ。  比喩だよ。

 性別関係なく遊んでいた時期ってあるだろ


 四王しおうごっこをすればあたしが炎王えんおう役だ

 そりゃ最強役は譲れないよな。


 地王ちおうとかは嫌だったな。 地味で。


 なんて言ったらヨハネスとかは怒んのかな?

 あいつ地王ちおうであること誇りに思ってるもんな。


 まぁ、そういう男や女じゃない。

 子供って性別の人間が集まって朝から晩まで遊びまわってた。

 そういう関係、ずっと続くと思うじゃん。


 でも成長と共に子供って性別の生き物は減っていくんだよな。

 そうすると今度は増えてくるんだよな。 男って生物が。


 川でずぶ濡れになって遊んでたって、今まで平気だった事を急に恥ずかしがったりしてさ。

 なんだか気持ち悪い視線であたしの女の部分を見始めるんだよな。


 それでもあたしはみんなと一緒に居たかったよ。

 だから無理やり自分の女の部分は見ないようにしていたんだ。


 性別のない振りをしているだけの女のあたしとは友達じゃ居づらいのか、男友達は一人、二人、どんどん減っていって遊ぶことも少なくなっていった。


 一人を除いて。

 一緒にはいてくれたよな。


「ライラ。 僕らもう子供じゃないんだ。」


「ライラ。 もっと女の子らしくしたらどうだ。」


「ライラ。 子供の頃からずっと君の事が好きだった。」


「ライラ。 僕を避けないでくれ、 だから、 言えなかったんだ。」


 ライラックの紫花が咲き乱れている広場は子供の頃からの遊び場だ。

 そこで、幼馴染に告白されて拒否した。

 あの頃は、こんな感情もつ必要がなかったのに。

 あたしと最後まで友達でいてくれたあいつの事は好きだ。


 でも――

 あいつの好きとは違う。


 友達全てを奪っていくあたしの女が嫌いだった。

 そして、あたしはあたしの女から逃げた。


 性別のないリムノスからくり兵士に志願して――







 辺境伯と言われるウィル•ヴェイン伯が治めているエル国境付近。

 ヴェイン・テンペスト丘陵。


 こんな状況でなければ観光地になれるかもしれない。

 なだらかな起伏と新緑が続く土地の晴れ渡った天気の正午。


 リムノス軍勢とエル軍勢でこの場所は開戦真っ只中にある。


 エル神国もこの丘陵を超えられたら首都までの足掛かりされるから、大軍を配置して防衛している。

 何度も戦闘が行われたこの地は戦線状況にある。


 水王すいおうのあたしと炎王えんおうシモンズの連合部隊でも苦戦するのは必至だろう。


 だが、こっちには風王ふうおうの称号よりも死神の異名の方が大陸に轟いているアルもいる。

 四王しおうの内、三人。


 人形を数えるときは一人、二人で数えるから内二人は人形でも数え方は間違っちゃいないだろ。

 とにかく、これだけの戦力を集めるほどこの戦いは重要だ。


 アルはいつものように鉄塊てっかいでエル人兵士を藁束わらたばのように薙ぎ払ってる。


 あたしだって戦闘中、あたしの得物えものは巨木を思わせる大槍の魔導絡繰からくりだ。


 氷柱も繰り出せるがこれだけ敵味方乱戦している状況ではアルのようにエル人が防御した上から叩き潰すほうが効率的だ。


 あまりに元の自分と乖離かいりした状態だと精神に異常をきたすこともあるとかであたしの体は女性型で出来ている。


 とはいえ、からくり兵士だ。

 膂力はアルと変わらない。

 大槍をぶん回してエル人達をぶっ飛ばした。


(いつものようにってなんだよ。)


 アルの戦い方を見てるとイラついて仕方ない。

 何もできない自分に。


 泣き虫でめちゃくちゃ弱かったあいつが今じゃ――


『リムノスの怒れる復讐鬼』


 なんても呼ばれてる。

 タッドもメグもいなくて探しても、探してもどこにもいないのが悲しいだけのあいつが――


 それでもあたしは何もしてやれない。

 イラつきながらもあたしは魔導絡繰からくりでエル人との攻防を続けた。


「弟は兵士ではなかったけど、 兄弟の中で一番芯の強い奴だった。 僕なんかよりずっとね。」


 開戦前にあいつが言ってた言葉。


「でも弟の死に顔は恐怖に歪んでいた。 弟のあんな顔、 見たことなかった。 ライラ。 僕はどうしても許すことができない。 エル人も、 弟を守れなかった、 あのからくり兵も。」


 (だから、消耗品として使うのかよ。)


 (勝手に兵士にしたのはあたしたち大人なのに。)


 魔導絡繰からくり大槍でエル人を貫く、本当に貫きたいのは無力なあたしなのに。


「アルお兄様。」


 聞き覚えのある声だ。

 アルも声が聞こえたほうに向きなおってる。


 長い金糸の髪は見る影を失って病的な白髪に変貌してる。

 碧眼へきがんは狂気を感じる深紅に染まっていた。

 今よりは健康的だった肌色がもはや真っ青といっていい。


 ソロルだ。


(タッド達が妹の様にかわいがってくれていたよな。)


(エル人兵士の深緑の兵装なんか着てんじゃねぇよ。)


(せっかく戻れたんだ。 辺境伯のお嬢様やっていろよ。)


「ここにくればアルお兄様に会えると思っていました。 アルお兄様はいつも戦場にいるって噂でしたから。」


(もっと無邪気に笑ってたじゃねぇか)


(そんな狂気をはらんだ目でアルを見るんじゃんねぇ。)


(そんな笑い方……しなかったじゃねぇか。)


「アルお兄様がよわっちぃのなんて本当は知っていましたの。 でも私、 ずっとアルお兄様が好きでしたの。 私にとってはアルお兄様が主人公でしたのよ。 でもアルお兄様はいつもタッドお兄様とメグお姉様のことばかり大事にして、 私の事なんて見向きもしてくれませんでしたね。 いいんですの。 私もあの方たちが大好きでしたわ。 だから……アルお兄様が一番辛いときに私、 本当にひどい事をしたわ。」


(ソロル、 やめろ……。)


(今のアルにエル人は近づいちゃダメなんだよ。)


「あの時の事、 後悔していますの、 悔やんで、 悔やんで、 悔やんで、 悔やんで、 悔やんで、 悔やんで、 悔やんで、 悔やんで、 くやんで、 くやんで、 くやんで、 くやんで、 くやんで、 そのあと調整して、 調整して、 ちょうせいして、 ちょうせいして、 ちょうせいしてちょうせいしてちょうせいしてちょうせいしてちょうせいしたの。」


 アルが鉄塊てっかいをソロルに叩きつけようと飛び掛かる。


 ガキンっ。


 アルが振り下ろした鉄塊てっかいはソロルが魔導で作り出した巨大な氷柱に防がれる。


「お兄様がもう、 苦しまないように私が殺して差し上げます。」


 ソロルの狂気じみた笑みには艶やかさがあった。


 お嬢様っぽく、それいでいて無邪気に笑っていた面影はない。


 ガキどもがガキらしくしてた。

 もうあの頃には戻れない――

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