『誘拐』って、どういうこと!?
ビアンカ・サマサ
16歳。主人公の女の子です。
辺境の村で生まれ育った平民の少女ですが、王侯貴族の血筋にしか生まれないはずの『魔法』の素質を秘めており、
旅の賢者から『ハーモニア魔法学園』への推薦状を手渡されことで彼女の物語は始まります。
性格は温和で優しく、誰に対しても別け隔てなく接する明るさと、包み込むような温かさが特徴。
ちょっと天然が入っていますが芯の強いところもあり、いざという時の行動力は周囲をあっと驚かせることも。
魔法属性は『光』。その本当の才能はまだ開花していませんが、今もその輝きの片鱗を目にした人は不思議と心が安らぐと故郷のタート村では評判で――――
――説明書の人物紹介はこんな感じだったはずだ。
『私』の記憶からサルベージし終えて、一息つく。
改めて思い出してみると、なんとも当たり障りがないというか、物凄く平凡で王道な主人公設定だなあと感じるわけだが。
ていうか、特に性格のあたり。同じ内容を違う言葉に言い換えて、何度も繰り返してるだけじゃないか?
まあいい。
なぜ今、ビアンカの紹介文なんて思い返していたかというと、そこに気になる一文があったからだ。
胸中で嘆息して、そのフレーズを繰り返す。
いざという時の行動力は、周囲をあっと驚かせること、も……?
(その結果がこれなわけ?)
逃げて
目の前には隠れ家にあった椅子に縛りつけて、拘束したビアンカの姿。
いまだ意識はなく、顔をうなだれさせて静かに寝息を立てている。
影の泥を呑んだはずだが、その悪影響も特になさそうだ。
それが幸いかどうかは、今のルナには判断しかねたが。
ビアンカを抱えて夕暮れの路地裏を走っていた時は、生きた心地がしなかった。
夜が降りてくる路地裏で、ひとけそのものがなかったのは唯一の救いだ。
おかげで憲兵隊からの追跡も撒けた……はずだ。ひとまずは。
「痛っ……」
いい加減さっきから、口の中の裂け傷がじくじく痛み出していたのもある。ロッソと痛み分けたルナの負傷だ。
傷は喉までは達していないものの、放っておいたら化膿するかもしれない。
早めに治療したいが、隠れ家には救急キットの用意はなかった。
いい加減しつこいが。
本当にこれが夢なら、こんなにめちゃくちゃ痛むのも理不尽で納得いかなかった。
頬をつねって目を覚ますどころか、その頬が抉れるほどの深手が誘発して、頭痛が止まらない有り様だ。
痛みを再現するほど出来のいい悪夢なんて、それはもはや地獄と同義だった。
「くぅ……すー」
それにしたって、溺れ死にかけたわりにビアンカはのんきな寝顔である。
なぜ、どうやってルナを追ってきたか知らないが、結果、まんまと殺し屋に
一応、気道確保と呼気の確認ぐらいはしたけど、その必要もあったのやらだ。
もっとも、ルナのほうも人のことは言えない。
ビアンカの暗殺に失敗して、しかし、絶好の機会だったはずの影の世界では逆に彼女を助けてしまい、なし崩しで連れて逃げて、あげくこの有り様である。
途中で、ほぼ丸ごと人格が交代するような
それにしても全部しっちゃかめっちゃかで、ひどい状況だった。
「あーもー。どうしてこうなるかな。一個もうまくいかない。夢でも夢小説でも異世界転生でも、創り物なら普通はもっとチョロいもんじゃないの……?」
特に今、目の前で寝こけているビアンカ。彼女の存在こそ頭痛の種だった。
ルナを追う憲兵隊、そして
現在進行形でルナは、今挙げた中の誰にいつ襲われてもおかしくなかった。
(……今からでも遅くない。ビアンカを殺すべきだ)
一方で、頭の片隅で冷静に考えている自分もいる。
安易だが確実な方法だ。この選択は早いほどいい。そうしない理由もない。
愛用の短剣は乱闘のゴタゴタで手放してしまったが、この隠れ家にも予備のナイフくらいあるし、いっそ縄で絞め殺してもよかった。
気絶した少女相手なら、花を摘むように簡単に殺せるだろう。
あるいは次善の策として、ビアンカを放置して逃げる手もある。これまた同じく、そうしない理由はないのだが。
しかし、ビアンカは穏やかな顔で眠りこけているが、得体の知れない魔法の汚水を呑んで溺れた直後である。
見た目通り本当に無事だという保証はなく、わざわざリスクを犯して助けたのが、結果的に徒労に終わりかねない。
だからって処置の仕様もないのだけれど。
前世の自分はただの女子大生だったし、今に至っては殺ししか能のない暗殺者だ。
助けようにもできることなんてなく、だったら、今すぐ殺して逃げたほうが後腐れもないわけで――
馬鹿馬鹿しくなってくる。
結局ルナは悩むふりをして、今の状況に無理やり意味を作ろうとしているだけだ。
そうして時間をこね回しているのが一番無意味だと分かっているのに。
と、ちょうど思考が一巡りしたところで変化が起こった。
ビアンカが目を覚まして、椅子の上で小さく身じろぎしたのだ。
「ん……ん、ぅ。ここは……?」
既に日はとっぷり沈んで、夜になっている。
訓練で夜目の利くルナと違って、ビアンカは暗い小屋ではなにも見えないだろう。
それでも咄嗟に黒いローブのフードを
開いて――けれど、なにを言ったものか自分でも分からず、実際口にしたのは場違いに普通なことだけだった。
「お――おおおは、おはよう?」
しかもかなりキョドってて、声は半分裏返っていた。
……ダセェなおい。
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