第156話 帰省の出発

 公女マルテッラまで一緒に行くことになったので準備期間が増えてしまったレオたち。

 レオは帰省するという一報だけ簡単な手紙を元々書いていたのだが、具体的な日にちまでは書かずに送っていたことを幸いとして、特に追加の連絡は出していない。


 護衛という立場もあり、レオ達は自身の馬車と一緒に公女の屋敷に迎えに行き、そこから一緒の出発となる。

 だがその前に、公女と使用人達に対して、レオの側も自己紹介する。

「では、お互いにどうぞよろしくお願いします」

と、レオが双方とも全員を良く知っているため挨拶の司会をすることになった。


「レオ、暇だから同じ馬車に乗って魔法講義をして貰えない?」

「マルテッラ様、流石にそれはダメですよ。レオ様も今はコグリモ伯爵で、あちらに専用の馬車もご用意されているではないですか」

「つまらないの。じゃあ休憩の時など時々はちゃんと来なさいよ」

 レオ自身が断らなくても使用人が上手くかわしてくれてホッとし、時々は顔を見せることになったことには、使用人とも仕方ないね、と頷きあう。


 この一行の馬車は合計で5台となった。公女マルテッラ、その使用人、荷物などの馬車が減らしたと言われつつ4台。それぞれ使用人の御者がつく。

 それに加えて、レオの貴族用馬車が1台。レオたちがいつも騎乗する騎馬(バトルホース)のうち、レオともう1人、交代で御者をする誰かの騎馬の2頭が馬車を引く。そのため、5台の馬車の周りを騎乗して護衛するのは7人ということになった。



 レオは、出発してしばらくするとマルテッラが暇と事前に言っていたことも理解する。騎馬、それもバトルホースの脚力での移動ではなく、馬車でゆっくり進むので時間が経ったと思ってもまだここ?と思う程度しか進まない。しかも馬車に1人で乗っていると暇で仕方がない。さらに馬車は結構揺れるので何かするにも不便である。

 仕方ないので、馬車の中でも≪飛翔≫で浮かび続ける訓練をしながら、ポーションの調合や皆に配る教育用魔導書の見直し等を行っていた。


 また久しぶりにまとまった時間が取れたので、それらの合間に古代魔導書の読み込みを改めて行う。既に記載されていたほとんどの魔法を習得済みになった後は、見返す機会が減っていた。

 ケーラ達が属していた教団では床に描かれた魔法陣で不特定の悪魔を召喚していたという話に対して、すでにレオが契約済みの天使グエン、悪魔アクティムやファリトンの≪召喚≫の魔術語の応用で読み解けるところが無いかと再確認するのと、最近は死霊魔法や≪霧氷≫を習得したことでの新たな学び、気づきが無いかの確認であった。

 古代魔導書の読み込みは、念のために姿を消したまま召喚したグエンと話しながら行っている。


 不特定の天使を召喚するという手段は無いわけではないが、神界での制約もあり悪魔ほど自由では無いらしい。

 一方、不特定の悪魔を召喚する方が魔界での制約もなく自由であり、応えてくれる悪魔の幅も広いらしい。他人に気兼ねの不要なこのタイミングで、悪魔アクティムにも色々と聞いておく。

「召喚時に捧げるものが優れているほど、呼ばれる悪魔も力が強いものになりやすいぞ」

「具体的には?」

「触媒として、知性のあるものの血と魂、通常は人間1人分だな。これを1人分ではなく大量に捧げるのが一番シンプルだ」

「いや、それはダメだ」

「まぁ、魔物や動物の血と魂でも良いが、その場合には込める魔力がたくさん必要になる。捧げる血か魔力が多いほど高位の悪魔が応じやすくなるが、所詮は賭けだな」


「ついでに教えて。魔力を供給し続けたら、この世界に存在し続けられる?例えば、ある程度は自由に魔物を狩って来て貰う等ができる?」

「魔力の供給ではなく、この世界での依代を用意すれば可能だな」

 適当なものを探したところ、投擲用の短剣が複数出てくる。

「ほぉ、それぐらいなら良いぞ。それを依代にすれば、自由時間は魔物を狩りに行って能力向上に努めることも可能である。この世界で力を現す機会が増えるのでありがたい」

 せっかくなのでアクティムとファリトンそれぞれの依代とし、適当なところへ魔物を狩りに行って貰うことにした。あくまでも人目につかないところで、人の迷惑にならないように、という条件付きである。

「グエン様は天使ですからそんな自由が難しいのは残念ですね」

「まぁ神界は秩序、魔界は無秩序を象徴するものだからな」


「グエン様、霊的な存在から力を借りるって、神界、魔界、精霊界それぞれから天使、悪魔、精霊ですよね」

「その通りだが?」

「グエン様やアクティムのおかげで神霊魔法や悪魔魔法にも縁が出来ましたが、精霊魔法はまだ確認できていないと気づきまして」

「確かに。ただ、精霊関係の具体的な魔術語を教えてあげることはできないぞ」

「やはり、きっかけまでは自分で用意しないとダメなんですね」

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