第150話 テソットの戦後処理
戦勝騒ぎの中でも、捕虜にしたリブレント軍のうち魔法使い達だけは早々に戦争奴隷の処理を行なっていた。それ以外の捕虜は武器を取り上げただけだったので、順次戦争奴隷の処理を行なっているが、数が多すぎて追いつかない。
レオ達はコリピザ軍の将兵の治療が終わった後に、捕虜達の治療を行なっている。
「さて、この後はいかがしましょう?追撃はしないと既に昨日のうちに決定されておりますが」
「そう、追撃での成果を求めるより、これ以上の怪我人が少しでも出ない方を優先する。まずは街の復興だな。幸い、街の中に敵が侵入していないので、それほどの被害はないのだが」
「もともと食糧が乏しくなったところへ、捕虜が増えました。もちろん敵陣から残った兵糧を回収していますが、いつまでも捕虜を養うのは難しいです」
「そうだな、今回の侵略への賠償金要求と合わせて身代金の要求をして早々に引渡しをしたいところだが……」
「はい、おそらく今回の撤退はリブレント王国側で何か問題発生したのかと。他国が攻め入って来たなど」
「その可能性が高いだろうな。そうなるとこちらへの賠償金や身代金の対応などすぐには期待できないだろう」
協議の結果、王太子達の援軍はテソットから早々に撤退し王都に帰還して、兵糧の消耗を抑制することになった。それ以外に、このテソットらしい解決策が取られる。
テソットの街はもともと魔の森の魔物対処のための街である。そしてこの戦争で魔物の間引きが出来ていない期間が長かったので、魔物が溢れる氾濫スタンピードが怖い。そのため冒険者達へ魔物討伐をいつも以上に推奨するだけでなく、戦争奴隷にも武器を与えて魔の森に行かせるのである。食料などの資材不足に対しても一石二鳥となる施策である。
方向性としてはそれで良いが、膨大な捕虜に対して指揮命令系統ごと丸々入手できたわけでないので、指揮官が不足している。王都に帰るだけの援軍から幾らかは残して貰ったがそれでも不足するため、冒険者でも見込みがある者へ戦争奴隷を指導しながらの魔物討伐を依頼として発注もしている。
捕虜にした魔法使いの内訳は上級が1名、中級が2名、下級が3名であった。もしリブレント王国が身代金を払うとしたら、一般兵より魔法使いが優先されると思われるので王都に連れて帰るわけにも行かず、このテソットの街に残して他の戦争奴隷と同じように魔物討伐をさせることになっている。ただ、冒険者達に預けると魔法使いは取り合いになることが分かっているが、変なところに預けることもできない。冒険者経験が無い者も複数人いたため、まずは冒険者登録をさせて少しの間だけレオ達が面倒を見ることになってしまった。彼らが魔の森での魔物討伐に慣れれば、その魔法使い達だけで冒険者パーティーを組ませるとの前提である。
「そうは言っても、魔物に近づかれると魔法使いは弱いじゃないか……」
「まぁ6人も居れば何とかなるだろう、慣れるまでは森でも手前の方で練習させれば良いってさ」
レオも仲間達を説得して指導にあたる。
「小紺魔……」
「なぁ、前にもそう呼んでいる奴がいたけれど、何のことだ?」
「背の小さな、紺色のローブの悪魔。そこの人のことだ」
「レオ様、小さいって……」
「……俺の名前はレオナルド。それかレオ・ダン・コグリモ。小紺魔なんて名前じゃない……」
「本当に小さな子供だったんだ。こんな子供に俺たちはあしらわれていたのか……」
「ほら、互いに名前を名乗ろう。今は魔物を相手にする仲間なんだから。そう、こちらはレオ様。俺はエルベルト。お前達の名前は?」
互いにショックを受けているレオと戦争奴隷達。エルベルトが間に立ってそれぞれに自己紹介を進める。リブレント王国の魔法使いだった者たちは、上級がタンツィオ、中級がラウデリオ、ジョゼッラ、初級がフロリーノ、トニエーラ、ラーイーナである。ジョゼッラ、トニエーラとラーイーナが女性で男女半々であった。
身代金が払われていつ敵に戻るか分からないのもあり、魔法の指導等はせず、単に魔物の討伐、野営の仕方などだけを指導することになっている。レオは居心地が悪いのもあり、できるだけ接触を避けて、入手が再開された薬草でのポーション調合に注力している。
冒険者ギルドとのやり取りの中で、ケーラとラーニナも銅級冒険者の認定を受けている。Cランクのハイオークとの戦闘力だけでなく、人間であるリブレント王国兵への対応もできていたことを認められた結果である。
王太子達はすぐに王都に戻って行ったが、レオは個別に呼び出しを受けて書付を渡されていた。今回の働きに感謝する、王都にまで戻っての陞爵(しょうしゃく)イベントへの参加を強制しない、この書付を持ってコリピザ王国の伯爵と認める、という内容であった。王太子と一緒に来ていた官僚達に伯爵としての支度金と年金がミスリル貨3枚ずつ、そして今回の戦争でのポーション徴収代金など大量の金貨も渡される。
「あの王都メッロの子爵邸の方々はどうなるのでしょうか?」
「コグリモ伯爵がご希望されれば、以前に別の伯爵が使っていた館を新たにご用意しつつ、別の働き手をご紹介させていただきますが」
「いえ、館も人も同じままでお願いします。またこれらを資金としてあの人たちにお渡しいただけますか?」
貰った金貨のうちそれなりの数を分けて官僚に預ける。
「かしこまりました。ただ彼らの給与は国家で負担しておりますし、陛下から政権奪還の褒美として今後も負担すると指示を受けております。伯爵がお気になさる必要はないのですが」
「いえ、貴族として何をすべきか分かっていない身ですが、せめてコグリモ家の縁者となった方々が困らないようにはしたいと思いまして」
「承知いたしました。そのお言葉と共にお渡しします」
「いえ、言葉は恥ずかしいので……」
コリピザ王国としてもルングーザ公国への言い訳上、レオ達をこの国に縛り付けることは出来ないが、繋がりを残したい想いとして屋敷と使用人を用意していたのである。今回の戦争にもレオが協力したのは儲け物との思いがあり、王都に連れ帰ることは出来ないと認識しているからの特別扱いであった。
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