第148話 リブレント軍の動揺

テソットより北部で上がった狼煙の調査としてテソット防衛隊が騎馬で駆けつけるが、作業者は既にどこかに逃げ出した後のようで、誰も残っていない。その報告を受けたテソット代官館での軍議。

「やはり我が国の狼煙では無いようですな。ということはリブレント軍。このタイミングでは、撤退しろか増援を待てかのどちらかでしょうな」

「期待としては撤退ですが、推測は含まず、王太子殿下の陣にお伝えしましょう」

テソットと王太子の援軍の間にリブレント軍が横たわってはいるが、そこは自国内。少し遠回りをすることで、連絡を取る手段はいくらでもある。


一方、リブレント軍においては動揺が広がっている。

「あれは、撤退命令だよな。本国で何かあったということか」

「可能性としては、フィウーノ王国が攻め入って来たか、長期戦になったことで不戦派の文官達が勢力を増したか。万が一に前者であれば猶予が無い。一刻も早く引き返さなければ……」

「しかし、コリピザに対して攻め込んだ我々から休戦の申し入れは……」

「とはいえ、この対峙しているなかで本国への撤退を無事には行えないだろう?」

「……」


その夜の、テソットの代官館。

「あぁ、ちょうど良い。あの狼煙のことを聞きたかったのだ」

「我々は本国に戻る。ただ手柄が欲しい。小紺魔を上手く誘導して孤立させろ。アイツの首を取れさえすれば、まだ格好がつく」

「ほぉ。ではいつが良い?」

日時と場所について密使と膝を突き合わせるマリアーノ。



それから2日後。リブレント軍がいつも以上に騒ついていることが遠目にも分かる。

「なぁレオ様、何か変な感じだよな」

「確かに、総攻撃の準備でもしているのか、何か違和感があるよな」

「でもレオ様は指示を受けた通り、街の東南で敵陣に嫌がらせ攻撃をするのでしょう?」

「ま、軍の全体の動きなんて分からないから、言われた通りにね。変な感じはするから、いつでも魔の森に逃げ込めるように意識はしておいてね」

最近のレオ達は、日中は敵陣に戦馬バトルホースで接近し魔法攻撃をして離脱して距離を取ることを繰り返していた。その場所は都度、代官館の軍議で決まった結果として指示されるだけであり、今日の指示は東方面であった。

南方面にコリピザ援軍の本隊がいるため、リブレント軍も北方面からの嫌がらせに対しては全力で応対ができないことを見越しての行動である。もちろん少数の騎馬が追いかけてくることはあるが、少数であればレオ達が撃退する、もしくは街付近まで逃げ切りさえすれば城門や城壁からの援護射撃が期待でき、最悪は街内に逃げ込めることになっていた。

今日は相手の雰囲気が違いはするものの行動自体に違いは無いと嫌がらせの魔法攻撃を皆で実施すると、反応が違った。

リブレント軍の陣地の門が全て開かれ、大挙して押し寄せて来たのである。


「おい、どういうことだ!?」

「良いから皆逃げて!!天使や悪魔、レイスだけ残して逃げて!」

「この敵の数では、魔の森に逃げ込んでも危ない!街に向かうよ!」

レオも天使グエン、悪魔アクティム、ファリトンにありったけの魔法発動を指示しつつ、昼間だから効果が薄いと控えていたレイス達にも命令をする。

「きゃー、助けて!」

焦りから転びそうになったフィロにはカントリオ達がフォローに入り、ひたすら北上する。

しかし、テソットの南の城門が閉じられているのが遠目に見える。


「どういうことだ!?」

「何かあったのかもしれない。守備隊が東に回るように腕を振っているようだぞ!」

「仕方ない、東門を目指すぞ!」

一応城壁の近くを通って逃げると、テソットの城壁からの援護射撃があるのだが、敵の数が多すぎて効果がどの程度あったのかは分からない。バトルホースが賢いので方向さえ指示すればそちらに全力で走ってくれて、脚力の違いから一般馬の敵とは距離が開いてくのだが、土煙が立ち上るほどの大群が後ろから追いかけてくる恐怖は言葉にできない。しかも今更に気づくのが、リブレント軍の陣地とテソットの間にはいつもと違い味方が全然居ない。

「おい、俺たちは囮か何かになるようにハメられたのか!?」

「そんなことを今言っても仕方ない。良いから逃げろ!」


東門が見えて来ても、門は閉じられたままであり、その上の守備隊がさらに北にまわるように指示してくる。

「どういうことよ!」

「もう何も考えるな!魔法を撃つことも考えず、ひたすら馬にしがみついて逃げろ!」

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