第147話 王太子の到着2

王太子達の援軍本体がテソットの街の南部に到着した夜、街の代官館で軍議が開かれている。レオも今回は参加している。

「アスコンカ子爵による騎兵隊の成果、いつもながら素晴らしいものでしたな」

「いえ、今回は王太子殿下達の到着による混乱に乗じただけですので」

「さて、これからいかがすれば良いか皆さんの意見を伺いたい」

「まず状況報告をさせて頂きます。ご承知のことばかりと存じますが、整理として。今までテソットの街の東西南北の4方向に陣を構えていましたリブレント王国軍ですが、北東西の3つは全て南に移動しました。多かった北陣も含めてです。かなり慌てて移動したと見えて、建築していた柵や陣屋などすら放置したままです。流石に兵糧などは残っていませんでしたが、攻城兵器等も放置されています」

「やはり王太子殿下達の援軍本隊へ総力で向かうということか」

「はい、目測にはなりますが、殿下達の兵数はリブレント王国の兵数に負けておりますが、テソットの守備兵を足すとそれほど見劣りする数ではないかと」

「つまり、足しても数では負けているのだな」

「は、テソットでの守備戦においていくらかは減らして来たはずですが」

「仕方ない。この国は長らくルングーザ公国やガンドリア王国への戦で消耗していたのだ。リブレント王国軍を殲滅する必要はなく、追い返せば良いのだ」

「は、代官様のおっしゃる通りですな」


「で、これからどうするかですが、殿下の本隊からの指示は無いのでしょうか」

「間にリブレント軍がいるために、細かな連携はできないので、挟み撃ちを適時するように、とのことでした」

「では、大きく3つの班に分けましょう。薬草だけでなく食材も不安になって来たこともあるので、軍隊行動が苦手な冒険者を中心に魔の森に向かわせましょう。また戦闘力に劣る工作隊達には敵陣に残った資材の回収をさせましょう。そして戦力に期待できる部隊にはリブレント軍への攻撃を。もちろんアスコンカ子爵の騎兵隊もこちらになります」

「そうですな、敵はテソットへ攻める余力が無いでしょうし、街の防衛は最低限にしましょう」


レオ達は人数も少ないことから遊軍とされ、たまにリブレント軍に魔法攻撃をしてすぐに撤退をすること、そして引き続き治療行為と夜襲を行うように指示をされる。

「ようやく一息つきますね。昼間の防衛、治療、夜襲、合間でのポーション調合と。特にレオ様は働き詰めでしたので」

「いや、皆もお疲れ様だったよね。一応、念のため敵の来襲に備えつつ、怪我をしないように安全な行動をしようね」



一方、リブレント軍において。

「このままではマズいな。内戦で弱っている今がチャンスと攻めて来たのに、こんなにテソットの街には粘られ、とうとう敵の援軍の本隊まで来てしまった」

「は、この兵力差程度ではテソットを奪うどころか、無事に帰国することも難しくなりました……せめて援軍本隊が来たとき兵を南ではなく北に集めていれば」

「敵本隊が街に入られたら勝ち目は皆無だったんだ、今更それを言っても。ただ、こんなに長期戦になってしまったので、隙をついて攻めてくる国が出てくる可能性も。特にフィウーノ王国の奴らなど」

「とは言って、ここで負けを認めて休戦申し入れをすると賠償が……帰国後の我々の立場も……」

「せめて敵の大将を討ち取るなどの手柄を上げないと」

「どうやって?既に魔法使いはかなり数を減らしてしまい、奇襲は難しいぞ。平地同士のにらみ合いの現状では」

「うーん……」

答えが出ない軍議の後、一部の者が立ち話にて。

「そういえば、あのテソットの街の代官、あれは上手く使えないのか?亡命受け入れをチラつかせて何とかしていたのだろう?」

「は、冷遇されていると言っていましたので。今はテソット陥落の可能性も減ったので強気に来られるかもしれませんが、連絡してみます」

「上手く使って、我々の撤退の手伝いをさせる方法を考えさせろ」

「は」



「おやおや久しぶりだな。生きていたのか」

「街の包囲もとけたので、またこの代官館に忍び込めるようになったからな」

「それだけリブレントは余力が無くなったということだろう?」

「ふん。まだ亡命したいのであれば、何か良い策を提示して貰おうか」

「ほぉ、リブレントは本当に余力が無くなったのだな。まぁ考えておこう」

「頼んだぞ」

密使が去った後、1人ニヤつくテソット代官のマリアーノ・ダラム。



それから数日は、テソット南の平原にて、南方では微妙な小競り合いがコリピザ援軍とリブレント軍の間でありつつ、北方では昼間のテソットからの騎兵による撹乱、さらにレオ達による夜襲というリブレント軍にとってはジリ貧の状態が続くことになった。

そうした中、テソットより北部で巨大な狼煙が上がる。場所的にはコリピザ国内であるが、テソットの街の者も、王太子達の援軍の者も心当たりがない。

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