第146話 王太子の到着
そしてようやくコリピザ王国軍の、王都からの援軍本隊がテソット付近に到着する。タージリオ・マストヴァ・コリピザ王太子が歩兵や輜重車なども率いた大軍での到着である。
先に来た騎兵隊の規模ではなく、テソットの街の南に陣取っていたリブレント王国軍もそのままでは不利と分かっている。
「先に指示を受けていたように、まず狼煙をあげよ。そしてテソット側への防御を捨ててでも全軍、南の敵本隊へ備えよ」
リブレント王国軍としても、コリピザ王国軍の本体がテソットの街に入ってしまえば、勝ち目が無くなることを認識しているからである。城や街を攻略するには守勢の3倍以上の戦力が必要と言われることもあるのに、今まで陥落できなかった事実に対して、さらに守勢が増えるのである。
そのため、南から来ると分かっていた援軍本体の到着前にテソットを落とし切るのがリブレント王国の作戦であった。もし間に合わなかった場合には、街の東西南北に分散させていた軍を全て南陣に集約することになっていた。
狼煙を見た東西の陣では、リブレント王国軍の本陣である北陣に向けた狼煙をあげつつ、南陣に急ぎ駆けつける手配を行っている。数十人の小隊規模単位で準備が出来たところから南に移動を開始する。
「何とか間に合ったようで良かった」
「はい、おそらく代官のダラム男爵が上手く調整しながら、コグリモ子爵、アスコンカ子爵の活躍があったのでしょう」
王太子タージリオがこぼした言葉を側近が拾って回答する。
「そうだな、きっと今回の功労賞はその3人を中心であろうな。もちろん全員が頑張った成果でもあろうが」
「は、リブレント王国軍を追い払った時には十分な功労を行えるよう手配を行います」
「頼んだぞ」
北、東西の敵軍が南へ集結するのを見ているテソット守備隊は襲撃を相談する。特に背中を見せているだけの南陣には、他方面からの敵が集まる前に早いうちに打撃を与えておきたい。
「アスコンカ子爵!」
「はい、準備できております。南陣へ突撃して参ります」
「流石ですな。よろしくお願いします」
「コグリモ子爵は!?」
「いつものように各門に分散して対応されています」
「こんなときに門に攻めてくる相手も居ないだろう。かの主従は騎乗できたはず。東西どちらかで南下に注力している敵軍に魔法を打ち込むよう依頼せよ」
代官館での会議への参加より現場戦力として使われていたレオには、使者が作戦を伝えてくる。
「確かに城門や城壁から離れて南へ移動している者達ばかりですね。軍としての統制もそれほどではないようですが、かといってそこに我々少数が攻め込むのは無謀では……」
「は、私はお伝えしに来ただけですので……ただ、そのご懸念はごもっともかと。東方面ならば、打撃を与えた後は森に逃げ込むことも可能ですし、南下を急ぐ敵軍も森まで追いかけて来ない可能性も」
「なるほど、ありがとうございます」
天使グエンによる伝言で東門に集まり、今回の指令を皆に共有するレオ。
「かなり無茶な指示だな」
「本体が到着するのも確定して、そろそろ手柄をあげすぎたレオ様が邪魔になって来たのかな」
「カントリオ!言い過ぎだぞ」
「でも、今さらながらに手柄が欲しい人たちもあのように駆け出しているみたいですから、紛れて行動しますか」
「俺たちに戦の全体像はわからないし、誰かに恨まれたくもないけれど、街の人や冒険者の皆さんが困らないように、できることをやろう。この街が解放されたら、ルングーザ公国に戻るのか何がしたいか考えようか」
「そうか?そうだな!じゃあ俺たちの故郷、ガンドリア王国に旅しないか?」
「お、それ良いな。貴族様の家臣になった自慢しに帰りたいな」
「レオ様も故郷のシラクイラへ帰省されるのはいかがですか?」
「よし、みんな、早くこの戦いを終わらせて旅を楽しむことにしようぜ!フィロ、報奨金は貰えるだろうから美味しいものを食べる旅になるぞ」
「子供扱いしないでよね!でも、レオの故郷の港町も見てみたい」
気を紛らわすことで適度にほぐれた仲間達と、戦馬バトルホースに乗ってのリブレント軍への魔法攻撃に繰り出す。確かに南下を急ぐ敵軍は、少しは応戦する気配もあるが、森方面にまで逃げ込めばそこまで追いかけてくる感じはない。敵も数十人の小隊規模で移動しているため隙間は多く、こちらのバトルホースの脚を止められるほどの壁にはならない。
テソットの街と森を何度か往復することで、アスコンカ達の騎兵隊による襲撃ほどの成果は出ていないのは確かであるが、敵の移動が終わった夜までにはそれなりの戦果を得ることができた。
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