第145話 援軍の到着2

「守備隊の皆様、合図と共に城門を開けてくだされ」

被害を恐れないリブレント軍の勢いに押され出した北門の内側で、騎兵隊が集まっている。

「あぁあなた方が援軍の。ありがとうございます!しかし、城門を開けて大丈夫でしょうか?」

「どうも我々騎兵の到着が知れ渡る前のようなので、奇襲のチャンスです。大丈夫です。門前の敵は蹴散らしますので、お願いします」

「承知しました!」


城門の守備隊長クラスより援軍の騎兵隊長の方が格上であると普通に推測されるので元々命令ならば逆らえないと理解している守備隊は、命令口調ではなく説明もあった開門依頼に従う。

開門と同時に飛び出せるよう、手前の道に下り勢いをつける準備ができたところで合図が出される。合わせて、城門の上から敵兵に攻撃していたレオ達も、真下ではなく少し遠くへの攻撃に切り替える。


「おぉ、テソットの奴らも諦めたか。出てくるぞ。迎え撃て!」

リブレント軍の隊長達が城門の開く気配を見て口々にゲキを飛ばすが、

「何だと、こんな数の騎兵が居たのか!?」

と、騎兵隊の突進に戸惑う。

本来、騎兵は勢いをつけることで歩兵に対する優位性を保てるものであり、足を止めてしまうと馬体の分だけ高い位置にいる優位と周りを囲まれて動きに制限がでる劣位で微妙になる。それを分かっている援軍の騎兵隊長アスコンカ子爵は、十分な助走をとった上で突撃させたのである。

城門前に集まっていたリブレント軍は反撃するものの、意表を突かれたことによりすぐに崩れ出す。


「我々騎兵隊の腕の見せ所だぞ!行くぞ!」

まずは城門前に展開されていたリブレント軍を蹴散らした後は、北方の陣から締まりなくのびて来ていた将兵達へも勢いのまま攻撃を続け、適当なところで門内に引き返して行く。

そこで再度守備隊から大きな歓声が上がり、リブレント軍は今日の引きどころと認識したのか、撤収の鐘が鳴り響く。

それは他の3門にも伝搬したようで、東西南北の全てでリブレント軍は自陣に引き上げ、逆にテソットの街では勝ちどきが上げられる。


援軍到着も知れ渡り、久しぶりのテソット側の優勢に街中が盛り上がる。

「アスコンカ子爵、到着早々のお手柄、お見事でございます」

代官館で集まった守勢の幹部達が援軍に感謝を述べる。レオは久しぶりのまとまった休息が取れると宿に戻ろうとしたのだが、許されずその場に参加させられている。

「いえ、我々の到着が遅れたことでテソットの皆様は大変であったかと。申し訳ありません」

あくまでも腰を低く丁寧な対応をとるアスコンカに皆が集まっていく。

「ところで、王太子殿下に伺っていたのですが。我々よりさらなる先発隊である魔法が得意なコグリモ子爵はどちらに?」

「おぉ、いつも魔法で敵を攻撃し、味方を治療し、さらには夜襲までとご活躍頂いております。日頃はこのような場に参加されないのですが、はて」

幹部の1人が質問に答えながら周りを見渡し、レオを見つけて連れてくる。

「あなたがコグリモ子爵ですか。私はガウデルモ・アスコンカと申します。王都奪還の際に私は地方にいたので合流できず。あの時のご活躍を耳にするたびに直接お会いできること、同じ戦場に立てることを夢見て来ました。どうぞお見知りおきくださいませ」

「そんなご丁寧に。私はあくまでも少し魔法を使っているだけでして。今回の北門で拝見していました騎兵隊の皆様のご活躍には到底及びません」

「お二人とも!お二人とも大活躍ですよ。おかげでテソットの街が陥落せずに済んでいるのです。謙遜など!さぁさぁ今夜ぐらい楽しく飲みましょう!」

お気軽な幹部が割って入って来たのを幸いに、本日の話題の中心人物から逃げ出し、そのついでに宿まで逃げ帰って久しぶりの安眠を貪るのであった。もちろん、代官館で今日は夜襲をしなくて良いとの言葉を得ていたからである。



その翌日からは、まとまった数の騎兵隊が増えたこと、初日に北門でその騎兵隊が大打撃を与えたことが活かされていた。今までは敵が城門や城壁に押し寄せてきても、上から矢や石、そしてレオ達による魔法で応対するだけで、城門は閉じ切ったままであった。そのため、どうしても遠距離攻撃への対応として盾などを用意されていると、大きな打撃を与えることが出来なかった。しかし十分な数の騎兵隊が来たことで、隙を見て城門を開けてリブレント軍に打撃を与えることができるようになった。

また、そういう手段があることを知った相手に対して、城門を開ける振りをするだけでも、城門付近での動きを制限させることができるようになり、実際に騎兵隊を待機させていない他の門でもフェイントを有効活用することが可能となった。

それらの効果で、今までは劣勢であったテソット守勢が息を吹き返し士気も回復してくるのであった。

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