第144話 援軍の到着

「おい、本当に王太子殿下の援軍なんだろうな?」

「確かに数は少ないですが、南方から来ています。リブレント軍への追加ならば北方からですよね」

守備兵達が不安になりながら南方を見ている。


「ほら、南の陣のリブレント軍がこのテソット向きだけでなく、反対の南側にも半分ほどが向きを変え出しましたよ」

「おぉ。でも援軍にしては思っていたより数が少ないな。このままではまずいぞ。こちらからも攻めて気を逸らさせるのだ!」

テソットの街、しかも南門の守備兵だけでは敵の陣地まで攻め入るほどの戦力は無いが、城門を開いて、弓矢が届く距離まで将兵を進める。城門や城壁から敵陣までは届かないからである。


「おい、城門が開いたぞ。敵の援軍など放置して北側、街を目指せ!」

「何を言う!南側の敵軍は騎兵ばかりで、それに背中を向けるとこの南陣は蹂躙されるぞ!」

リブレント軍も王都からの援軍が到着することは想定していても、戦闘に入るときにはもっと大軍同士らしく事前に準備期間があると思っていたため、騎兵による急襲は想定外であったようだ。


「よし、今だ!方向転換!向かって左、西側にずれながら街に入るぞ!」

リブレント軍の混乱を見計らって、騎兵隊の隊長は指示を出す。

テソットの東西南北をリブレント軍が囲うとはいっても、完全な円形の包囲ではなく、東西南北の城門付近それぞれに固まって4つの陣が存在する形状であった。そのため、南陣と西陣の間が存在し、王太子軍の騎兵達はそこの合間を通ってテソットの街に入り込む。

テソットの守備隊も、援軍が街に入り切るとすぐに街に戻り、城門を従来通り固めるのであった。



代官館で、援軍の上位層を出迎える代官達。

「援軍、お待ちしておりました。よくぞお越しくださりました。代官のホレイモン・ダラムです」

「遅くなり申し訳ありません。王太子殿下から先発で、と指示を受けて参上しました、騎兵隊を預かります子爵ガウデルモ・アスコンカです」

「先発で、とは?確かに騎兵のみで数も少ないようですが」

「はい、援軍依頼の使者がこちらテソットの街から何度か届いておりまして。歩兵などを含めた従来の進軍速度のままでは、到着に時間がかかりそうですので、少数ながら移動速度を優先した騎兵隊のみで参りました」

「それは助かります。敵は完全に遠征軍が到着しているようで、こちらの士気が厳しい状況でした。先発の皆様が到着されただけでも、士気が上がります」


レオ達は敵の本軍が到着してから、東西南北への役割分担は都度変わるようにしている。やはりどうしてもレオが居るところが強くなるため、敵の攻撃をどこかの門に集中させないためである。そのため、この援軍の騎兵隊が到着したことを知ったのはこの日に南門を受け持っていたラーニナとケーラの組であり、天使グエンによる伝言で他メンバも知ることになった。周りの守備隊にもその情報を共有したことで、南門だけでなく他の3門での士気も上がっている。

逆に南門の様子を知らない北門のリブレント軍は、テソット守備軍の歓声の意図が分からない。

「ふん、きっとカラ元気だ。逆に乗ってやろうではないか」

と攻勢を強める。リブレント軍は援軍が来た後の東西南北での兵力の配置として北側を厚くしたままであったので、余計に強気の行動であった。


リブレント軍にとって不幸であったのは、レオがその日は北門の担当であったことであろうか。

昼間なので標的になりやすい≪飛翔≫は使用せずに城門の上から届く範囲でしか応戦していなかったのに、敵が自分から城門に近づいて来たのである。これまでも少しずつ攻城兵器を燃やして来ていた効果もあり、リブレント軍は城壁にかける梯子も簡易な物が増えたのだが、それら簡易梯子と残っていた城門に突撃する巨大槌を従えた兵士たちが北門に押し寄せてくる。投石器はかなり意識して夜襲などで燃やしたおかげか残りは少ないようである。


「魔法使い達も今が頑張りどころだぞ!」

と、リブレント軍の中で指示が飛んでいる。今までは狙いの的になるのを回避するためか、これまであまり発動してこなくなっていた魔法も今回は前線に出てきて、≪氷槍≫や≪火槍≫がレオのいる城門の上に飛んでくる。

「敵の魔法使いには悪いが、この機会に退場して貰うしかないよな……」

もう相手のことを考える余裕もないレオは、天使グエンや悪魔アクティム、ファリトンに対して敵魔法使いを特に標的に対応するよう指示を出す。


レオだけでなく、援軍が到着して士気が上がっているテソット防衛軍も今まで消費を抑えていた矢や投石を好機であると使い出すので、リブレント軍の被害は増える。しかし、やはりリブレント軍は数で勝るので城壁や城門にたどり着く者達が増えてくる。

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