第143話 ポーション枯渇
「コグリモ子爵、薬草が品切れです!」
レオは昼夜の攻防の合間でポーション調合をしているのだが、手伝ってくれている文官が朝から悲壮的な声をあげてくる。
「傷回復の薬草も先に切れていましたが、今度は魔力回復の薬草も、どこの店舗にもありません。冒険者ギルドの在庫も残っていません」
高級まで調合できるレオに優先して素材をまわして貰うようにして、薬瓶も使用後の物を回収して洗浄しながら使いまわしをしていたのだが、とうとう薬草が底をついたらしい。確かにこのテソットの街は魔の森という素材の宝庫が近くにあり入荷も多いが、それだけ魔物への対応の冒険者達も使用して消費も多く流通量が多い場所である。それがこのリブレント軍の襲来のせいで、魔物対応での消費も無くなったが素材の入荷も無くなってしまったのである。
「今晩は夜襲を諦めて、薬草採取に専念するしかないか。でも慣れていない森で採取場所を知らないし……」
「冒険者ギルド、もしくは冒険者から目当ての薬草の群生地情報を仕入れてきます!」
「ジョヴィオさん、お願いできると大変助かります」
「武官と違い文官は戦闘での直接の役に立てませんが、これも兵站の一つです。お任せください!」
「みんな、もうすぐポーションが底をつく。薬草も今夜に採取できれば良いのだけど。だから、ポーションの使用はできるだけ控えるようにお願いね」
「かしこまりました。でも、レオ様。魔法の発動の量が減ると、敵の攻勢が強まりませんか?」
「ジョヴィオさんが、守備隊の方々にも状況を伝えてくれるらしいよ」
「でも、守備隊の矢もかなり減って、今は街の中から瓦礫を集めてそれを投げている状況だよな」
「そうだよな。水や食料はなんとかまだ在庫があるようだが、色々と辛くなってきたみたいだな」
「……まぁまぁ私たちにできるところを頑張りましょう」
「ベラ、ありがとうね。そうだ、やれることを頑張ろう。きっともうすぐ王太子殿下達も来てくれるよ」
今はもうレオ達は北側だけでなく東西南北それぞれに分散配置して対処するよう代官から指示を受けている。魔力回復ポーションを使用できないとなると、レオのところやラーニナとケーラが一緒のところはまだしも、ベラとフィロが分かれてそれぞれ対応するところでは戦力不足が心配である。エルベルトたちに補佐として、魔力がある限りの攻撃魔法を発動して貰うがそれでも敵の魔法使いの数には対抗が難しい。
「ベラ!どうしたんだ!?大丈夫なのか?」
昼間の攻防が終わり宿に皆が引き上げてきたところで、ベラが左腕から血を流しているのに気づく。矢を防ぎ切れず受けてしまったのに、魔力消費がもったいないと攻撃魔法や他人への回復魔法に魔力を優先していたらしい。
「私は左腕が使えなくても魔法の発動はできますし、こうやって宿に戻り休憩すれば回復して来た魔力で治療できますから」
「ベラ、そこまでしなくて良いんだよ」
「レオ様!レオ様の魔力は今夜も色々と優先することがあります!」
レオが回復魔法を発動しようとするとベラに止められる。そして、今夜も留守番になる予定のシュテアが何度か発動した≪回復≫で治療されると、薬草採取への出発を促してくる。
「薬草採取、何人も行くのは危険ですよね。レオ様に採取を教えていただいたフィロと私がお供します」
ジョヴィオが入手してきた薬草の群生地には、城壁をこっそり超えたレオ、ベラ、フィロの3人とそれぞれの戦馬バトルホースで向かうことになった。そして、天使グエンと悪魔アクティムによる護衛で適当な魔物は撃退しながら何日か分のポーションを調合できる薬草を採取する。
「レオ様、今夜はどうかご無理をなさらないように」
城壁内にベラ、フィロ、バトルホースを送り返して、今夜分のポーションを調合してから夜襲に向かうレオにベラが声をかけてくる。
レオは微妙な苦笑いをして、いつものように東西南北それぞれの敵陣に天使、悪魔達と≪飛翔≫で向かう。
「レオ!」
疲労、寝不足等が積み重なったレオはどうしても注意力が散漫になっており、天使グエンが≪結界≫で敵攻撃を防いでくれる回数が増えている。
「我たちに任せて、少し休んでおくのだな」
契約主が死亡すると現世での魔法の発動というせっかくの機会が無くなるという言い訳のような言葉と共に悪魔アクティムが発言し、悪魔ファリトンと敵陣への魔法攻撃を続ける。
「レオ様!」
宿にたどり着いたレオはいつも以上に疲労感をあらわにベッドに倒れ込む。
「大丈夫、怪我はしていないよ。ただこのまま寝るね……」
翌日からもポーション消費を抑えながらレオ達が魔法発動、夜襲などを行うが、少しずつテソット側の消耗品不足が顕著になって来て、冒険者を含めたテソット側の士気も下がって来たところで、吉報がようやく届く。
「王太子殿下の援軍だ!」
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