第142話 テソット死守3

敵の本隊が到着し、4方向それぞれの陣へ夜襲をした翌朝、レオ達は代官屋敷からの使者に起こされてしまう。

「コグリモ子爵、夜襲あけに申し訳ありませんが、敵襲です!北門へ皆様お集まりください!」


急ぎのようなのでそれぞれ戦馬(バトルホース)に乗って北門に駆けつけ、城門の上に登り守備隊長に話を聞く。

「敵は本隊を4方に分散することなく、この北門に押し寄せて来たようです。先程、今更ながらの開戦の口上がありました」

「ちなみにどのような内容だったのでしょうか?」

「現コリピザ国王と名乗る簒奪者は、亡くなったコリピザ国王から国を奪った悪人である。リブレント国王の甥は、その母君がコリピザ国王の妹でありコリピザ国王の甥でもあるから、その甥が正当な後継者としてコリピザ国民を助けに来たという話です」

「で、その甥という方は姿を現されたのでしょうか?」

「いえ。ですので、きっとリブレント王国にとどまったままでしょうし、口上もこじつけでしょう。せっかく現国王スクゥーレ様になってこの国の先行きに希望が持てるようになったのですから、こちらの将兵達には敵の発言など全く響いておりませんよ」

確かに守備兵達は、敵の数の多さに圧倒されてはいるようであるが、投降の気配などはなく、迎撃のための矢石の準備に励んでいるようである。


北から大軍が近づいてくるが、それが陽動であろうと本気であろうと他の門への同時攻撃の可能性も十分にあるので、テソット守備軍は北門の守りだけに専念できていない。その中、レオ達だけは敵兵数への対抗として北側に集められている。

当然に守りの優位性を保つために城門は開かず、城門や城壁の上部に守備兵が並び、弓矢や投石で迎え撃つ予定である。

レオ達も、夜襲ではないので昼間に上空を飛ぶと目立つのとレイスなどアンデッドは昼間に有効活用しにくいことから、城門や城壁の上から遠隔攻撃の魔法を放つ予定である。



一方、その攻め寄せているリブレント王国軍の少し前のやりとり。

「聞いてはいたが、やはりあの小紺魔は面倒だな。結構な被害を受けたようだ」

「はい、見たところ1人でこの軍勢に攻め込んで来て、複数のレイスを使役しながら膨大な数の王級、上級魔法による攻撃を行っていました」

「そうは言っても、我が軍の魔法使い達が撃退したのも事実なのだろう?やはり数で押せば勝てるのではないか?」

「は、私もそう思ったのですが、魔法使い達の実感は違ったようです。後少し攻撃を続けられていたら、こちらの魔法使い達は魔力切れで危なかったとのこと」

「魔力回復ポーションがあるのではないか?」

「それが、我が軍で用意しているポーションは初級品がほとんどであり、上級魔法をいくつも放ち続けるには……」

「ということは何か?あの小紺魔は我が軍の上級魔法使い複数人以上の魔法をあれだけ使用できる魔力を保有しているというのか?」

「は、それか高級以上のポーション補給が十分にあるのか……」

「わかった。しかし小紺魔は1人しか居ないのだ。うちの魔法使い達を4門に分散して攻め立てれば、残り3門では余裕であろう?」

「それが、昨夜使用した魔力がまだ回復しておらず。また分散すれば小紺魔に対抗できる力がなくなり、出くわした1門が惨敗になると申しております」

「やはりあの黒ローブの傭兵達、失敗した後も代わりの者を要求しておけば良かったのか……」

「兵数では我が軍が圧倒しております。コリピザの応援軍が来る前に力押しで勝つしか無いかと……」



ときは戻り、開戦の口上も終わりリブレント軍が攻城兵器を陣の前に押し出している頃。

「やはり夜襲で焼ききれなかったみたいだね。ちょっと黒焦げはついているけれど」

「きっと数は減らせていますよ。あれは門にぶつけて破る巨大槌ですか。あれは投石器ですね。梯子も火除け用ひさしがついた本格的なものですね」

守備兵達が色々と教えてくれる。

梯子は今までのように城壁に取り付けられる前に燃やせば良いのだが、ひさしがあるならば火矢ではなく火魔法が良いのだろう、城門攻撃用の槌は、今までのように門の前に石壁や火壁などを用意すれば勢いを削ぐことができるだろうと想像される。となると投石器が脅威である。投石器はこちらの弓矢の届かない距離に設置されるようで、通常の遠隔攻撃の魔法では届かない。

天使や悪魔を、姿を見せないように≪召喚≫して、その遠い距離の投石器や梯子のひさしより下部に火魔法を発動させる。


目立つ敵兵器に対してはレオ達が何とか対処できているが、兵数に圧倒するリブレント軍は弓矢の応酬でも余力があり、さらにテソットの街の東西南北全てに対して同時攻撃を行ってくる。

レオ達が居る北方の一部だけは何とか持ちこたえているが、他の3門では守備側の兵数不足からどうしても矢数に違いが出てくる。ただ、城門や城壁など高所からの優位性のお陰でギリギリという状況である。


その戦力差を埋めるため、夜になるとレオだけは夜襲を、他のメンバは傷ついた将兵の治療を頼まれることになり、レオはさらに大量消費するポーション調合も行っている。昼夜問わず駆り出されるレオ主従は疲労が溜まっていきながら、テソット側の被害を最小限に減らすよう戦いを維持している感じであった。

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