第135話 テソットでの前哨戦2

ハイオークを殲滅し、城門に戻ったところで先ほどの守備隊長がレオの近くに駆け寄る。

「コグリモ子爵、大変です!」

「やはり、陽動でしたか?北門ですか?」

「はい、陽動ですが、北ではなく西門です。お願いします、お急ぎください!」

「残したあの3人にもその旨をお伝えください。私たちだけでも先に向かいます」


急ぎ駆けつけた西門では敵の騎兵を押し出すように城門を閉めようとしているところであった。先に王都北の砦でリブレント王国の鎧は記憶していたので、その騎兵に向けて≪氷結≫を連発する。

魔の森に近い東門と違い、重たい扉が落ちてくるタイプではなく観音開きタイプであるので、攻め寄せる相手を押し出しさえすれば、扉の内側で太い横木、閂(かんぬき)をはめられる。

「≪氷結≫で勢いが止まったけれど、扉を閉める邪魔になってしまったな」

「慌てていたから……ごめん」

城門が閉まる場所の先に≪石壁≫を乱発し、それ以上は敵が押し寄せられないようにした上で、それより手前の敵は個別に≪氷結≫で動きを止めてから、守備兵と一緒に凍った敵兵を縛って移動させることで、城門を閉じる。


一息ついたところで自分の身分等を説明したうえで城門の上に登ると、西門の守備隊長が状況を教えてくれる。

「コグリモ子爵のお陰で、何とかなりました。東門で騒動を起こした隙に、反対の西門を騎兵で襲撃。門を開かせたままにしておき、あそこに見える軍隊が攻め寄せる予定だったのでしょう。宣戦布告もしてこない急襲とは戦の礼儀も知らぬ奴等め……」

テソットの街からそれほど遠くないところまで撤退したと思われる騎兵の群れ、そしてそれよりさらに奥、遠くにかなり多くの兵士が居るように見える。

「こんなに近づくまでどうして気づかなかったのでしょうか」

「リブレント王国は北から来るという思い込み、そして多数の兵士の移動には時間がかかるという思い込みでした。敵は足の遅い輜重などと足の速い騎兵を分けて速攻を狙ったのかと」

「王太子率いる軍隊が到着するまで、この街の兵力だけで持ちますかね?」

「それは何とも。代官のマリアーノ様のところへ向かって頂けないでしょうか」

「かしこまりました」



代官館では、武官、文官が集まりだして、分かっている情報の範囲で議論が開始されていた。

「コグリモ子爵、よく来てくださいました。実際にご覧になった子爵から話を伺えますか?」

会議の進行役と思われる文官から促されるので、認識している状況を説明する。

「まず東門に来ていたハイオーク30体ほどは殲滅済みです。そして、それが陽動だったのか、西門に攻め入っていた騎兵達は門から閉め出して城門を閉じることまでは成功しています。閉め出された敵兵は街からある程度離れたところで集結しています。またそれよりさらに奥の方にはかなり多くの兵士が居るようでした」

東門、西門それぞれの状況説明では歓喜の意味の「おぉ」という声が周りから漏れたが、後半の説明では「うぅむ」という唸り声が漏れている。

「敵兵の具体的な数はわかりますか?」

「西門の守備隊長の見立てでは数千の軍勢ではないかと仰っていました。おそらく足の速い騎兵などだけの先兵なのであろうと」

「確かに。リブレント王国も攻め込んでくるならば万の数を揃えてくると見込んでいたのに」

「まずいですな。王太子軍が到着するまでこの街の防衛力では……」

「防衛側が有利で、この街が頑丈な城門、城壁を誇るとはいえ数千に攻め立てられると。冒険者を含めても千に及ぶかどうか……」

「冒険者達も魔物相手ならこの街にとどまっても、リブレント王国を相手の場合に参戦するか……」

前向きな建設的な意見が出なくなってしまったので、いったんその場は解散となったところで、レオだけ代官の部屋に呼ばれる。


「コグリモ子爵を先に送って頂いた王太子殿下に感謝ですな。殿下のご指示の通り、敵が到着してしまったので、対処の方、どうぞよろしくお願いします」

「できる限りのことをさせて頂きます」

「期待しております。テスケーノでは数を上回る前国王軍へ夜襲を成功させて逆転させたとか」

「あのときも決して我々だけの成果ではありません」

「必要な戦力があればお申し付けください。あまり多くを割くことはできませんが。それと、子爵家の主従は治療が得意とか。西門の支援をお願いしたい」

「かしこまりました」



レオ達が去った後の代官館。

「聞いての通りだ」

「つまり、夜襲に差し出すから、それを待ち構えて適当に始末すれば良いという話だな」

「ここまでしたのだ。約束通り私の身分は保証して貰えるのだろうな」

「もちろん、本国には貴公の貢献を報告させて貰う。今の男爵などの冷遇より上の爵位で迎えることになるであろう」

「期待しているぞ」

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