第134話 テソットでの前哨戦

「好きにするが良いとは言ったが、何とお粗末な……」

「うるさい!手をまわして釈放してくれないのか?」

「そこまでしてこちらが面倒になるのは困る。自業自得だろう?」

「フン。ならば予定を早めて開戦することにしよう」

「は、中途半端な戦力では二の舞になっても知らないぞ」

「まぁ見ておけ」

昨夜の代官館でのやり取りを知らないレオ達は、朝から冒険者ギルドに来ている。

昨夕は襲撃者の連行などでドタバタして行えなかった、ケーラとラーニナの鉄級冒険者への昇格と、それぞれ魔術師委員会に所属する手続きを行った上で、BランクやCランク魔物の発生場所、日帰りで行けそうな場所が無いかを改めて調べていた。



……カーン、カーン、カーン……

「何の音だ?警鐘?」

「襲撃だ!腕に覚えがある奴は城門に向かえ!」

「何!?どこだ?」

「東門だ!魔の森の方向だ!」

冒険者達のやり取りを聞いたレオ達は顔を見合わせると直ぐに東門に向かう。


このテソットの街は、主街道にあったテルセーナなどの街に比べて人口規模も小さいが、魔の森の前にあるために万が一の魔物氾濫(スタンピード)が発生した時の前線基地になるため、街の守りは頑丈である。そのため、城門の上だけでなく城壁全ての上に人が並んで城壁の外に対して弓矢など遠隔攻撃ができるつくりである。

レオ達はそのことを先に確認していたため、街の兵士の邪魔にならないように東門付近の城壁の上に並んで敵の様子を確認する。

「あれか?」

「そうなんだろうな。でも、リブレント王国が攻めてくるならば北門が一番近いだろうから、陽動作戦ということは?この前に砦と王都で引っかかったし……」

「あのときは距離のある砦と王都の間だったから効果も期待できたが、この規模の街の北と東の差で、あの戦力?」

「いくらダンジョンで補充できると言っても、たくさん消費させてしまったからなのかな……」

エルベルトやレオ達が見た東方向に居たのはハイオークが30体ほどだけであった。今の自分たちの戦力では全く脅威に思わないが、そもそも魔の森の前線基地になり得る冒険者がたくさんいるテソットの守備戦力、冒険者達だけでも何とかなる程度であり、どうしても罠を疑ってしまう。


城門の守備隊長らしき人物にコリピザ王国での子爵であることを示しつつ、銀級冒険者が何人も居る証明書を見せる。

「先に、王都やその北部の砦ではリブレント王国がハイオークによる陽動作戦を行っていました。この度も同様の可能性があるため、機動力と殲滅力がある私達に任せて貰えないですか?」

敵国の作戦の可能性もあるため、レオ達は紺色ローブと仮面という格好でもあり、クーデターでの活躍を認識していたらしい隊長に了承を貰う。


「じゃあ折角だからケーラやラーニナの銅級相当の証明に使おうぜ」

「そうだな。まずは2人がそれぞれハイオークを1人で倒すところを城壁からも見えるところで」

「「かしこまりました」」

バトルホースで上手く逃げながら、ケーラが≪氷壁≫でハイオークを単体に遮断しつつ≪氷結≫と≪氷刃≫で分かりやすく1体を仕留める。ラーニナは≪氷壁≫で仕切られた1匹に対して何度もの≪氷刃≫で何とか仕留める。

「よし、後は遠慮なく」

あまり時間をかけたくないので、レオは≪飛翔≫も行い、皆も天使や悪魔達も総動員しながら残ったハイオークを仕留めにかかる。シュテア、エルベルト、カントリオは≪火炎≫、メルキーノとラーニナは≪氷刃≫の中級魔法までではあるが、それでも9人それぞれがそれなりに威力のある魔法を使いつつ、天使や悪魔、そして同時発動などを含めるととても9人とは思えない手数の魔法である。

城門、城壁に集まっていた衛兵や冒険者達からは驚きの歓声が上がる。



……カーン、カーン、カーン……

それなりに街に近いところで戦っていたため、街中の警鐘がレオ達にまで聞こえてくる。

「ん?もうハイオークの殲滅も終わるタイミングで警鐘?」

「やはり陽動だったのかも。残りも仕留めて確認に戻ろう!」

殲滅後は、自身の大きめの魔法の収納袋をシュテアに預けて、他に大きい収納袋を持つケーラと、どうせなら一緒にというラーニナの3人でのハイオークの死体回収を指示して、レオ達は街中に戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る