第133話 テソットへの駆け付け3

屋台での食べ歩きを9人で行うと周りに迷惑になる。

「じゃあ、俺はベラ、フィロと。残り2班はエルベルト・カントリオ・メルキーノ、シュテア・ケーラ・ラーニナでどうかな?」

「レオ様、それはまずい。女性3人を、戦を前に興奮している街に放り込むのはダメだろう。俺が女性陣に混じるよ」

「何、カントリオ。なら俺が混じる」

「いや、俺が」

「もういいよ、わかったよ。じゃあ皆でくじ引きをしよう」

結局、レオ・ケーラ・ラーニナ、エルベルト・カントリオ・フィロ、メルキーノ・ベラ・シュテアの組み合わせになった。

「あぁフィロか……」

「カントレオ!私じゃ文句あるの?」

「いえいえ、もちろんそんなことは……」

「あっちやこっちも食べたいと連れまわされると思いますので、どうぞよろしくお願いします」

「ベラさん、大丈夫ですよ。男2人いますから」

「エルベルトさん、ありがとうございます」

レオは食べ歩きのついでに薬草なども仕入れたものを夜に調合する。しかし、同室の男性陣達からは魔法は教えてと言われたが、調合に関してはそんな細かい作業はきっと向いていないと敬遠されてしまった。


翌日は、事前に相談していたように魔の森に魔物狩りに向かう。特にケーラとラーニナが実力に合わず木級冒険者のままであるので、実績をアピールするためにもせめて銅級相当の力があることを示すつもりである。シュテアは先日の砦での戦闘も踏まえて対人戦闘も大丈夫であると、銅級への昇格は済んである。

ラーニナはまだしも、ケーラはBランク魔物のレイスを召喚できるのだから、少なくともBランク相当である銀級冒険者には成れる力があるはずであるが、日帰りでテソットに戻れる範囲でBランク魔物を探すのは難しいと諦めている。


ケーラとラーニナが仲間に加わった後は、基本的にテソットへの移動に注力していたため、特にエルベルト達とは互いの実力の把握もあまりできていない。道中で食材にもするための角兎ホーンラビットの狩り程度である。

まずは魔の森の浅い所で遭遇した魔狼やオーク達をエルベルト達が得意武器のショートソードやショートボウで仕留める姿を見せる。さらに森の奥に進んでもそれ以上の強い魔物には遭遇しなかったが、ケーラの≪氷壁≫≪氷結≫、ラーニナの≪氷刃≫などの実演を見る。砦での攻防の際に敵味方でレオなどは経験したことがあるが、味方として見ると頼もしい限りである。さらに悪魔や死霊を扱えるのである。


その日はそれ以上奥に進んでもそれ以上の魔物に遭遇できなかったので仕方なくテソットの街へ帰ることにする。もう少しで森も抜けて街が見えてくるというところで変な気配にメルキーノ達が気づく。

「来たときと雰囲気が違うぞ。そうだな、殺気というか何か変な感じがする」

「ん?こんなところで盗賊も無いだろうし、他の冒険者の恨みを買うようなことはしていないよな」

「≪結界≫の準備もしながら進むしかないか。皆、気をつけてね」

天使や悪魔をそれぞれ可能な限り召喚して万が一に備える。もちろん姿を消すように指示をしている。


木々が切れた場所でレオ達を囲むように現れたのが20人程。

「来たぞ!ただ、誰が小紺魔なんだ!?9人も居るぞ」

「誰もローブも仮面もしていないぞ」

「おい、何を話しているのか分からないぞ!お前達は誰なんだ!?俺たちを誰と思っている!?」

男性の威嚇する声が出せるエルベルトが代表して誰何(すいか)する。

「は!魔法使いのチビにだけ用があるんだよ。お前ではない!アイツかアイツなのか?」

どうもレオとフィロを指しているようである。

「チビだってよ。形無しだな……」

「うるさい!で、その魔法使いに何のようだ!?」

カントリオに笑われたレオが怒りを相手にぶつける。

「ことごとく俺たちの邪魔をした、紺色のローブと仮面の悪魔のような小さな魔法使いってのはどっちだ?」

「それがもし俺たちの誰かだとして、それがどうだってんだ!?」

「あぁ、もう面倒だ。皆、やってしまえ!」

「襲う相手のことの調査も甘い。邪魔をされたというならば、この程度の戦力で抑えられるわけが無いことも伝わっていないのかね……」

「エルベルト、もう良いよ。捕縛して衛兵に引き渡そう。拷問すれば話もしてくれるだろうし」

暗殺者にも見えず、鎧姿ではないが同じ長剣(ロングソード)を装備した集団は、きっとどこかの兵士、このタイミングならばリブレント王国と思われるので、生捕にすることを皆に指示するレオ。


天使や悪魔を含めて≪氷結≫の使い手が大量になったこの集団に対して、単なる兵士達が太刀打ちできるわけがなく、殺すこともなく縛り付けた21人は馬の背に適当に乗せられてテソットの衛兵に引き渡されるのであった。

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