第121話 砦での準備2

「で、リブレント王国はどこから攻めて来るのかな」

「少人数で来るならば、何も街道からとは限らないよな」

「うーん、この砦の近くの街道は東の森経由でのテソット方面、南の王都メッロ方面しかないよな」

「北はこの切り立った崖だよな。西の平野はどこまで繋がっているのかな」

砦の周りを見て回ったエルベルト、カントリオ、メルキーノの3人は西方面の守りが気になる。レオと一緒に守備兵に話を聞きに行くと、平原が少し続いた後は巨大な森になるという。また北側の切り立った崖はその森まで続いているので、それより先は調査したことが無いらしい。

「じゃあ普通の奴なら東の森を抜けて攻めて来るのかな」

「あぁ、普通の奴ならば、ね」

エルベルト達はレオから悪魔教団の黒ローブ集団のことも聞いているため、油断大敵という認識でいる。レオの≪飛翔≫魔法で1人ずつ崖の上に移動してもらう。

「これは不味いな」

砦のある南側は切り立った崖であったが、その山の北側はそれなりになだらかな斜面であった。

「もしリブレント側が知っていたら、少人数ならではの奇襲に使う可能性があるよな」


エルベルト達の話を守備隊長に伝えに行くレオ。

「コリピザ王国の人間は、あの崖の北側なんて考えたことが無かったですよ。だから崖に引っ付けて砦を作ったのですから」

「今回は北側のリブレント王国が敵なので備えておきましょう」

「とは言うものの、具体的には何をします?」

「おそらく東の森だけに注意を払っているコリピザ王国の裏をかくために、こっそりと北側から侵入する可能性があること、崖の上から落石などで攻撃してくる可能性があることだけ認識して、警戒するようにするだけで良いかと。裏をかくならば少数だけでしょうから、気付きさえすれば対処も可能でしょう」

「もし気付いても気付いていない振りで騙してやりますよ」

「無理はしないでくださいね……」



その後は地下道の掘削作業に全力を出すレオ達。

「こんな気になるもの、さっさと片付けてしまった方が戦に専念できるだろう?それに軍資金にもなるし」

「カントリオもたまには良いこと言うじゃない。じゃあさっさとその崩した土砂を運んでね。力仕事は得意でしょ?」

「くそー。俺もすぐに魔法を覚えてやるからな」

≪粉砕≫を使えるフィロと使えないカントリオの掛け合いであったが、

「きゃー」

「くそ!フィロは通路の反対側を手伝っておけ。ベラも一緒に行ってやってくれ」

とカントリオ達によるフォローになる。誰のものとも分からない死体も一緒に発掘されたのである。≪粉砕≫で崩して掘り進むと宝飾類の溶けた金属だけでなく、焼け焦げた死体もどうしても出て来るのである。また単純に≪粉砕≫などで掘削だけすると緩んだ地盤が再び崩れるため≪石壁≫などで補強しながら掘り進めることになった。

それでも単なる人手で行っていた時に比べるとレオ達の魔法により一気に作業は進み、砦への第一陣が到着するより先に地下道は開通することになった。

結局王冠や錫杖など形状を残した物は見つからなかったが、素材であったと思われる溶けた金や燃え残った宝石が何ヶ所かで発掘された。持ち逃げしようとしたり奪い合ったりしたのが何人か居たのだと思われる。

見つかった遺体は、それらしいというものも含めて、砦の東の森にまとめて埋葬することにした。こうなってはもう前国王か王太子か等の区別も出来ないし、何人分の遺体かすらも分からないものもあったからである。


「で、この金や宝石などの発掘品は誰が王都に持って帰っていたの?」

「ここまで一気に見つかってはいなかったので、少しずつを複数の兵士が相互監視して運搬していました。今回はこの量なので……」

結局は第一陣が到着するのを待ち、元々発掘作業をしていた者達とその護衛にいた者達が全員で王都に運搬することになった。彼らではリブレント王国への戦力にならないであろうことと、今まで盗難を防げていた人選であったためである。

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